2010年06月01日
TA タルタロ腐(バル×ロト3)
お久しぶりな更新です、ほんとのんびり進行で申し訳ない……w
しかも久々の更新が、腐小説とかね。ね。
まあ48シナリオまでのネタバレ妄想語りとかしても、結局それも腐語りになっちゃうんだけどね。
そんなわけで、バル×ロト連続話の3話目です。
それまでのお話などについてはこちらの目次的なものをご参照ください。
一応単品でも読めなくはない作りにしているつもりですが、バルロトがお好みでしたらせっかくなので最初からご覧いただく方がよいかと思いますし。
この話は、グリンデル終盤〜毒された森林中盤あたりくらいのネタバレを含んだ内容となっております。
まだシナリオをそこまでご覧になっていない方でネタバレはちょっと、という方は回避していたくほうがいいかもしれません。
また、普通にいたしちゃってますのでR-18とさせていただきます。
まだ見ちゃいけない年齢の人も見ないようにしてくださいね。
しかも久々の更新が、腐小説とかね。ね。
まあ48シナリオまでのネタバレ妄想語りとかしても、結局それも腐語りになっちゃうんだけどね。
そんなわけで、バル×ロト連続話の3話目です。
それまでのお話などについてはこちらの目次的なものをご参照ください。
一応単品でも読めなくはない作りにしているつもりですが、バルロトがお好みでしたらせっかくなので最初からご覧いただく方がよいかと思いますし。
この話は、グリンデル終盤〜毒された森林中盤あたりくらいのネタバレを含んだ内容となっております。
まだシナリオをそこまでご覧になっていない方でネタバレはちょっと、という方は回避していたくほうがいいかもしれません。
また、普通にいたしちゃってますのでR-18とさせていただきます。
まだ見ちゃいけない年齢の人も見ないようにしてくださいね。
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ただ心赴くまま
鼻を豚に変えられてしまったデイジーを助けるため、グリンデルに着いてからずっとクロモドと呼ばれる魔法師を探していた一行。
結局それは人違いではあったのだが、それをきっかけとして出会った魔法師クロモドは、精霊クインシーの病を治すためにと、オボロスのひとつである『治癒の石』を探したいとのことで、半ば強引に遠征隊に加わった。
シュバルマンが探しているのもその石ではあったが、クインシーの治療を終えた後なら持ち帰ることも可能だろうと、これといっていがみ合うこともなかった。
ただ、クロモドの人を避けるかのような性格のせいか、素直に「仲間に入れて欲しい」といった申し出ではなかった辺りに、ピンコやシュバルマンは少し不安を感じたりもしていた。
◇◇◇
クロモドの父の“失敗作”であった森は、「毒が発生している」との噂のせいであまり人なども近寄らない状態ではあった。だが、それが真実ではないと知っているクロモドの提案によって、遠征隊とナシプ族たちは森林を通り別のナシプ族の隠れ里を目指すことになった。
『毒された森林』と呼ばれるようになったその森は確かに異様で、毒が出ていると言われても違和感はないくらい、色も形も奇妙な植物が多かった。毒はないにしても、クロモドの父が失敗作と嘆き人を遠ざけたのもうなずける。
その道中も、クロモドは聞かれたことには答えるものの、自ら多くを語ろうとはしなかった。
部屋に篭って研究していることが多いからなのか、肌はとても白い。髪や目の色からして元々色素が薄めなのかもしれないが、暗い森の中で見るその魔法師の姿は、どことなく神秘的だった。
「口さえ開かなければねー……」
ぼそっと呟くピンコの声に、ソーマは苦笑する。
何かをできるかできないか、などを問えば必ずと言っていいほど締めに「大魔法師だからな」とつくその口癖は、ある意味彼の精神的な部分が幼いものであることを物語ってしまっていた。
実力に関しては、それが決して大げさではないということは、それまでのやりとりでわかってはいたのだが。
「ふつー自分で自分のことそんな風に言わないって」
十一歳のピンコにそう言わせてしまうというのも、二十八歳だとは信じがたい。
「俺のひとつ上、なんだよな」
ピンコのぼやきを聞きながら、うーんとシュバルマンはうなる。
やはり部屋に引きこもり、村人との接触まで避けていたせいなのだろうか。
クロモドは人付き合いなどが苦手なように見受けられた。
「シュバルマンさんは騎士をなさってたんですよね。上下関係なども厳しいでしょうし、そういった中で過ごされていたから、きっと無意識のうちに人との付き合い方を覚えられてるんですよ」
アエルロトはいつもの静かな笑みを湛えたままそう言った。
「そういうおまえはどうなんだ、アエルロト。放浪の騎士って言ってたが、いつ頃からそういう生活なんだ?」
直情気味で何でも正面からしか立ち向かえないシュバルマンから見れば、アエルロトのほうがずっと人付き合いに慣れているように見え、そう訊ねる。
「私ですか? さて、いつからでしたか……」
少し思い出そうとするようなそぶりを見せながら、結局答えずに歩き続けるアエルロト。
実を言ってしまえば、アエルロトにはクロモドのことがわからないでもなかった。
アエルロト自身、部屋や家とまではいかないものの、狭い世界に囚われ、そこでの暮らしがすべてであった時期があったから。
そしてその視野の狭さから、過ちと言えなくもない行いをしてしまっていたから。
「おまえは二十三って感じしないよな」
「それはどういう意味でです?」
クロモドとアエルロトを見比べながら言うシュバルマンに、アエルロトは笑みを浮かべたままの顔で訊ねる。
「んー、なんていうか、いろいろ勝てる気がしないっていうか」
そう言ううちに、シュバルマンはふいっと顔を背けた。
横を向いた顔はどことなく赤い。
「人には得手不得手というものがありますから……私もまだまだ未熟な部分はありますよ」
シュバルマンが何を思い出したのかを察して、それ以上追求はせずにアエルロトはその話を終えた。
「ねー、うちで一番まともな男ってソーマなんじゃない?」
ピンコはそうため息交じりにこぼす。
「ハハハ……そんなことはないと思います、よ」
ソーマはどう答えていいかわからず、笑うしかなかった。
◇◇◇
やっとのことでナシプ族たちの隠れ里についたものの、そこも安心できる場所ではなかった。
隠れ里の周辺は、おかしな寄生虫の蔓延によって危険な状態にあったのだ。
しかもそれが、王国の錬金術師たちの仕業だとかで、里の者たちは人間にはあまりいい目を向けてくれなかった。
イリシアが寄生虫によって傷を負い、操られてしまうと知って、一行は解決のために錬金術師たちの研究所を訪れた。そしてその錬金術師本人たちが虫によって壊滅しているのを発見する。
たったひとり生き残ったブリンデルを寄生虫から解放して捕らえ、里に戻った。
アイリートがブリンデルから聞き出した話により、研究所から治療剤を手に入れてくることになった。
その際、ナシプ族の青年キノネットまでもが寄生虫によって傷を負ってしまったが、無事治療剤を持ち帰ることができ、イリシアもニ、三日安静にしていれば大丈夫だろうということで、しばらく里に厄介になることとなった。
この村のナシプ族たちも、失われた要塞で見たものと似た、テントのようなコテージのような、簡素な部屋で寝食していた。
すぐに用意できる数は少なく、また規模も小さいものばかりで、避難してきた多くのナシプ族たちにそれを割り振るのにも時間がかかっていた。
「何でしたら、僕たちは倉庫などの片隅でも構いませんよ」
ソーマがアイリートにそう伝えたが、主にケガをしたイリシアなどはきちんと休ませるべきだとして、数少ないテントをいくらか回してくれていた。
イリシアから離れたくないというピンコと、少しでも体力回復をと看病につくナギは、結局イリシアと同じテントで過ごすことになった。
ピンコが幼く体が小さいため、それでも困ることはない。
問題は男性陣だった。
ソーマとシュバルマンは、なぜかあまりクロモドのほうを見ていなかった。
見ていない、というよりは、見ていない振りをして様子を伺っていた、というべきだろうか。
どちらもどことなく、「同じ部屋にはなりたくない」という空気を醸し出していた。
なぜなら、クロモドが錬金術師の研究所の近くで、二人とアエルロトしか知らないはずの『赤毛の盗賊団』の話を持ち出したからだ。
本人は、思い浮かんだイメージから連想した言葉を言ってみただけ、とは言っていたものの、それだけでそこまで的確に弱みを突くことなどできるものだろうか――シュバルマンもソーマも、「もしかしたらクロモドは心が読めたりするのではないか」などと少しだけ恐れを感じていたのだった。
アエルロトは自身にとっての弱みではないためか、その場は笑って見ていたが。
「ねーねー、だいまほーし様はやっぱり神経質なほう?」
ピンコがふとクロモドに問いかけた。
「……細かいことは気にはしないが」
どう考えても気にしそうな表情でそっけなく答えるクロモド。
「寝るときうるさいのも平気?」
続けて問うピンコの顔には、うっすらと含み笑いが浮かんでいた。
「眠るときは静かなほうがいいに決まっているだろう」
なぜそんな当たり前のことを聞くのか、とでも言わんばかりに怪訝な顔で、クロモドは答えた。
「だよねー。じゃあバルマンと同じテントはやめたほうがいいよー」
いびきがもんのすごくうるさいから、と、悪戯っぽく笑いながらピンコはシュバルマンのほうを見た。
釣られてクロモドの視線もそちらを向く。
目は「それは本当なのか」と問いたげだった。
「……自分じゃいびきはわからんが、そうらしいから、その」
実際には聞かれてもいないのに、シュバルマンは言い訳めいた言葉をぽつぽつと吐き始めた。
「たぶん俺よりはソーマとのほうが静かに眠れるんじゃないかと」
シュバルマンは心のどこかで、クロモドをソーマに押し付けてしまいたいと思ってしまっていた。
クロモドの得体の知れなさが怖いだけではなく、もうひとつ別の理由もあったためだが。
「私は明日も少し、この里の周辺を観察して回りたいと思っているからな。できれば夜は静かに眠りたい」
ふむ、と鼻を鳴らして同意を示しているつもりなのか、クロモドはそう続けた。
「ハハ……確かにシュバルマンさんとでは、クロモドさんは眠れなさそうですね」
ソーマがどこか諦めたような引きつった笑顔でそう呟いた。
その言葉で、本当にシュバルマンのいびきがうるさいのだなと理解したクロモドは、アルポンスを連れて割り当てられたテントのひとつへとさっさと歩き出した。
気づけばもうとうに日は暮れていて、個々のテントの灯りや、夜になると光を放つ虫や花などがぼんやりと輝いている。
ソーマはあまり軽いとはいえない足取りで、クロモドに続いてテントに入っていった。
ピンコたち女性陣は、すでにイリシアを休ませていたテントに入ろうとしていた。
外に残された“人間”は、シュバルマンとアエルロトだけとなった。
ふと、改めて周囲を見回して、シュバルマンは少しだけナシプ族たちの視線が気になった。
仕方のないことかもしれないが、自分たちはまだ信用されていない。
恐れるような瞳、憎しみの篭った視線……疑い窺うような顔。決していい感情など持ってはいない目があちこちから二人を見ていた。
「アエルロト、俺たちも……」
「あ、シュバルマンさんは先に入っていてください。私はちょっとだけ調べ物をしてから行きます」
視線に晒されていることに耐えられなくなったシュバルマンが声をかけると、思い出したかのようにアエルロトはそう言って、小さく微笑んだ。
「お? おお、そうか。わかった。き、気をつけろよ」
少し拍子抜けしたような顔でシュバルマンはうなずき、そのまま背を向けて歩き出すアエルロトを見送った。
アエルロトはナシプ族たちの視線もまったく気にしていないのか、思うままにあちこち見て歩いているようだった。
相変わらず何を考えているのかわからない。そう思いながらシュバルマンは、まだ誰もいないテントに入り込んだ。
◇◇◇
テントの中にはある程度暮らせるだけの備品が準備されていた。
布団らしきものが畳まれて隅に置いてある。
宿などに泊まればベッドで眠れるが、そんな贅沢なものはない。
とりあえず一式敷いてみて、シュバルマンはそこに寝転んだ。
あまり厚みのないそれは、慣れていない者には体が痛くなりそうな、申し訳程度の綿しか入っていないようだった。
寝返りを打ってみながら、ふと、「ここでは嫌がるだろうか」などという考えが浮かぶ。しかも、自分が想いを寄せている女性の姿ではなく、別の人物の姿で。
シュバルマンは一瞬背筋がヒヤリとした。
「何考えてるんだ俺は……」
今までずっと、そういった行為の際には目隠しをされている。
そして想い人の姿を思い浮かべるようにと言われ、そうしてきた。
だから、実際に行為を共にしている相手のその瞬間の顔は、見たことがない。
それを少しでも、「見てみたい」と思ってしまったのだ。
「見てどうするんだ。そんな意味のないこと」
シュバルマンは呟くような声で自問する。
しかし本当に意味はないのか。
想いを伝えてさえいない女性を想像の中で抱いていること自体、非常に悪いことをしているような気分なのに、さらに実際に行為に及んでいる相手のことを、最中には一切考えていないのだ。
「俺、もしかしてものすごく酷いことをしてるんじゃないか」
しかも一度に二人もの人物に対して。
そう考えが至った瞬間、シュバルマンは無性に焦りを感じて飛び起きた。
体を起こしたとたん、少しテントの周囲が光った気がした。
その光はすぐに消えてしまって、色さえはっきりとはわからなかったが、テントをぐるっと取り囲んでいたかのように感じられた。
少し呆けてしまっていると、入り口をめくり上げて黒い影が入り込んできた。
「アエルロト……今何か外が光らなかったか?」
その人物が誰なのかを確認すると、シュバルマンはそう訊ねた。
「ああ……少し用心のための魔法をかけさせていただきました」
用心? と聞き返すと、アエルロトはただうなずいて、それ以上詳しいことは何も言わなかった。
シュバルマンは布団の上にただなんとなく座ったままで、所在なさげに伸ばした足のつま先を左右に揺らしていた。
お互い無言のまま時が過ぎていく。
沈黙を破ったのはアエルロトだった。
「敷くのは一式だけでいいんですか」
「えっ」
黙っていた間、アエルロトはテントの内部を見回していた。
シュバルマンは言われて気づいたが、自分の敷いた布団がその位置のせいで、他の荷物などを片付けない限りもう一式が敷けない状態だったのだ。
「あ……えーっと、その、だな」
つい先ほどした想像に再び至ってしまう。
一度でいいから見てみたいという願望。
この澄ました笑顔は、行為の最中はどのような変化を見せるのだろうか。
だがその想像は、今夜もそれを行うという前提のものだ。
二人だけで同室になるたびにそれを期待してしまっている自分に気づき、シュバルマンは羞恥を覚えた。
(どれだけ飢えてるんだ俺……)
つい、赤くなって黙り込んでしまっていた。
アエルロトから投げかけられた質問にも答えないままで。
その無言を答えだとでも受け取ったのか、アエルロトはマントやベルトなどを外し始めた。
普段寝ているときのような格好になるまで装飾品なども外していく。
シュバルマンはただそれを眺めていた。
適当に脱ぎ捨てる自分とは違い、どこか優雅ささえ感じさせる指や腕の動きを、ただ眺めていた。
「あまり見つめられると恥ずかしいのですが」
視線に気づいたアエルロトが、動きを止めてそう言った。
「シュバルマンさんはそのまま寝るつもりですか?」
テントに入ってすぐ、そのままの格好で布団を敷き、寝転んでいたのだ。
まだ鎧もつけたままだった。
「いや、脱ぐ」
そう言って、やはり無造作に鎧を外して転がす自分に気づき、シュバルマンは手を止めた。
騎士として暮らしていた頃の自分は、まだもう少し気品というものがあったような気がする。
傭兵となって、他の荒々しい兵士たちと共に過ごしたり、一人旅などをするうちに、少し行動が荒くなってしまっていたかもしれない。シュバルマンはそう思った。
そして、アエルロトはどんな暮らしをしてきたのだろうかと、そちらへ視線を移す。
アエルロトは立ったまま、いつもの静かな笑顔でシュバルマンを見下ろしていた。
「暗いと外せない細かい金具が残っていないようでしたら、少し灯りを下げてもいいですか」
見れば片方の手はランプのひとつに伸ばされていた。
シュバルマンが鎧を外すのを待っていたようだ。
「ああ、見えなくても全部外せる、大丈夫だ」
暗闇の中でも、逆に身につけることもできるほど、鎧の扱いには手馴れていた。
答えながら次々と金具やベルトを外していく。
そして先ほどよりは丁寧に、鎧を置いていった。
段々と暗くなっていくテントの中で、体の動きを妨げるほどの硬度を持つ装備はすべて外していく。
一つの小さな灯りだけを残して、他のランプは灯を落とした。
残った光源が二人の影を揺らめかせる。
シュバルマンの横にひざまずくようにして身を寄せたアエルロトの手には、いつもシュバルマンから視界を奪ってしまう布が握られていた。
「なあ……それ、つけないでするのはだめなのか」
「見えないほうが想像しやすいでしょう?」
見てみたいからなどとは言えずに、遠まわしに拒否してみるが、それだけでアエルロトを止めることはできそうもなかった。
仕方なく、シュバルマンはその布に巻かれる。
まぶたを開いても、光が弱すぎて布越しに影を追うことすらできない。
離れてからでは掴むこともままらならないと感じ、まだ頭の後ろに回されたままだったアエルロトの手に、シュバルマンは自分の手を重ねた。
見えないからこそ余計に感じられる、自分の手との違いにふと力がこもる。
男の割りには細くてなめらかな指。
大剣を扱うシュバルマンの、力強く骨太で皮も厚い手とは、まるで住む世界が違うかのようだ。
出会った頃、剣術を教わりたいなどと言っていたが、結局教えたことなどなかった。
なぜなら、アエルロトは腕力で剣を振るうことなどなかったからだ。
彼の扱う剣は、魔法らしきものを操るための触媒でしかなかった。
手の中で、体の前で、その剣は浮いたままくるくると回り、魔法陣なのか術法陣なのか、そういった類の不思議な模様を描き出す。
一緒に戦っていても時折見惚れてしまうくらい、美しい動作。
「あの、あまり強く握られると痛いのですが」
苦笑するような声に、シュバルマンははっとして力を緩める。
力が緩んでも、アエルロトはその手を引き抜くことはせず、素直に握られたままでいた。
見えない状態で、このままでは自分の側が押し倒されそうでどうしようかとシュバルマンは一瞬悩む。
先ほど寝転んだ感触では、アエルロトを組み敷いてしまうのも申し訳がない気もした。
少しでも乱暴に扱ったら壊れてしまうのではないか――そう思えてしまうほど、指先から伝わってくる感覚が繊細だった。
「もしかして、躊躇されてます? 私なら冷たい石の床でも平気ですから、気にしなくていいですよ」
見透かされた上に妙に具体的な例を出されて、シュバルマンは戸惑った。
そんな場所で、一体どんな状況で誰と……気になり始めると止まらなかった。
引き寄せて倒れこむようにしながら、体を捻るようにしてアエルロトに覆い被さった。
「そんなとこでしたことがあるのか」
「さあ……どうでしょう」
シュバルマンとしては真面目に訊ねたつもりだったが、結局そのままはぐらかされてしまった。
言葉を続けようとしても、口づけで塞がれてしまったからだ。
仕方ないので諦めて、シュバルマンはそのまま口づける箇所を変えてゆく。
首筋から鎖骨へ下がろうとしたところで、やはりまた上も着たままであることに改めて気づく。
訊ねても脱ぐ必要はないと言うに決まっている、シュバルマンはそれを思い出して何も言わずに、裾から服の中に手を滑り込ませ、ただ撫でているフリをして少しずつたくし上げていった。
ふと、背に回した指先が、左肩寄りの一部に違和感があることを告げてくる。
傷痕か、火傷の痕だろうか。
気にはなったが、そういった事に触れられたくはないだろうとすぐに思い直し、指も離した。
アエルロトのほうは触れられたことに気づいているのかいないのか、すでに荒れてきている呼吸に混じる声を抑えようと必死なようで、反応からではよくわからなかった。
背に回していた指を再び正面へと這わせ、それまでは触れたことのなかった、小さな突起を探り当てる。
「っ!?」
触れた途端、驚いたのかアエルロトが息を飲む。
シュバルマンは気にせずに、その部分に指を押し付けてみたり、つまんでみたりを繰り返した。
どうすればいいものなのかもよくわからず、また女性と男性が同じように感じるのかなどもわからないが、本能に近い感覚でそうしたいという欲求に駆られていた。
「んっ……ぅ……」
何か言ってくるだろうと思われるアエルロトのその口を、シュバルマンは先手を打って塞ぎにいった。
指先の動きに合わせるように声が漏れてくる。
やめさせようとしているのか、細い指がシュバルマンの指に絡みつく。
「もしかして、ここ弱いから触らせたくなかったのか」
目隠しされたままでは表情は見えない。
だが、喘ぐような息遣いが、アエルロトから余裕を奪っているという事実を伝えていた。
「そんな、ことは……ない胸を触っても、女性を想像しにくいでしょう」
どうしても余裕を見せたいのか、ごまかしたいのか、アエルロトは以前と同じ説明を繰り返した。
「気づいてないようだが、俺、今イリシアさんの名前は呼んでないぞ」
「……」
シュバルマンの言葉の意味を図りかねてか、それとも気づいたためなのか、アエルロトは口をつぐんで身動きを止める。
「イリシアさんは今、虫にやられた傷のせいで安静が必要な状態だ。そんな人に何かしようと思えるほど、俺は身勝手な男じゃない」
それがたとえただの想像であっても。
シュバルマンはそう告げた。
「……それでも、私とは性欲処理のためにしたい、と?」
アエルロトのその言葉に、軽蔑などの感情はこもってはいなかった。
ただ淡々と、普段のような冷静な声でそう訊ねた。
「そもそもおまえが持ちかけたのは、そういう交渉だろう」
イリシアさんがどうこうというのを持ち出したのは、俺にこういう行為を受け入れやすくさせるためだろう、そう続けて問うシュバルマン。
「そう、ですね」
どこか観念したかのような声でそう言うと、アエルロトは絡めていた指を緩めた。
自由になったシュバルマンの武骨な指が、再び同じ箇所を責め始める。
服を限界まで捲くり上げ、さらに位置を探りながら、もう一方に向けて舌を這わせた。そうして見つけ出したそれに、シュバルマンはそっと吸い付いてみた。
「はぅ、んっ」
弓なりに背を仰け反らせ、一度上がりかけた声を抑えたかのような息が漏れる。
今まで声を抑えていたのは、イリシアであると想像しやすようにするためだけだと考えていたシュバルマンは、一度唇を離して問いかけた。
「声、もう抑える必要ないんじゃないか」
その言葉に、少し呼吸を整えるような間を置いて、アエルロトは答えた。
「我々人間はナシプ族から警戒されています。交代で見回りの兵が近くまで来てるんですよ」
言われて初めて、この場所が宿などと比べてある意味かなり危険であることに気づき、シュバルマンは今更ながら赤面した。
「先ほどの術は、ある程度音が漏れないようにするためにかけたものでもあるのですが……すべては防げないので」
おかしな物音や声を聞かれてしまえば、何事かとその見回りの兵が飛び込んできてしまうかもしれない。
鍵をかけられるドアがあるわけでもなく、ただテントの生地が垂れ下がっているだけの入り口なのだから。
「ですので、できれば……あまり激しくはしないでいただけると……」
珍しく弱気というか、しおらしい声でアエルロトはそう言った。
さすがに他人に目撃されるのだけは避けたいのだろう。
そしてシュバルマンは、そんなアエルロトがどんな表情でそれを言ったのかを、どうしても見てみたい衝動に駆られていた。
だから、何も言わず、何の前触れもなしに、突然目隠しを自分で解いた。
「!」
一瞬合ったその目を、気まずそうに逸らしただけで、アエルロトは責めたりはしなかった。
目隠しをする必要もなくなってしまっていたからだ。
イリシアの振りを、する必要がなくなっていたから。
普段は一切見せることのない、どこか戸惑ったような顔。
上気して赤い頬に、潤んだ瞳。
シュバルマンはつい、まじまじとアエルロトのそんな様子を見つめてしまった。
「そんなに見ないでください。もし女性相手にそんな不躾な視線を送ったら、すぐに嫌われますよ」
叱るように言いつつも、真っ直ぐ見返すこともできずに、アエルロトは視線を彷徨わせていた。
「ああ、すまない、なんとなく珍しいというか、その」
珍しいという言葉に、アエルロトはため息をつく。
「こんな行為をしている時は、誰だって普段とは違う顔になりますよ」
もちろん貴方もね、と付け加えると、アエルロトは腹を括ったのか、シュバルマンの頬に手を添えて導くように口づけた。
「後になってから、男じゃ欲情できないとか言わないでくださいね」
「その心配はない」
妖しく笑うアエルロトに、シュバルマンは真顔で答え、そのまま首筋に顔を埋めるようにして呟いた。
「すでにしてる」
◇◇◇
貪るようにあちこち口づけあいながら、どちらも着衣が乱れに乱れた頃。
「あ、申し訳ありません、ちょっと」
何かを思い出したかのようにアエルロトがストップをかけた。
「どうした?」
どちらも呼吸が荒い。少しの会話をするにも、息を整えるための間が空く。
「忘れていたんですが、この暗がりだと荷物の中から探し出せないので」
初めはなんのことかとシュバルマンは首をかしげていたが。
「あー……、なんかの薬……」
女性であればほぼ必要ないというその薬液を、そういえば今日はまだ使用していないことに気づく。
「灯りつけて探すか?」
「この状態まできてそれもちょっと……」
暗さに慣れて多少目は効いているため、互いが大体どんな格好をしているかはわかる。
今灯りをつけたらとんでもなく気まずくなる。
「えーと、じゃあどうすれば」
シュバルマンは困ったように呟いて頭をかく。
「先に、指で解していただければ、なんとか大丈夫だとは思うので……」
そう言って、アエルロトはシュバルマンの右手を取って口元に引き寄せた。
そのまま、シュバルマンの指をしゃぶり始める。
「う……なんかくすぐったいんだけど……」
指先から与えられる舌の感覚に、シュバルマンは時々手を引っ込めようとするかのようにぴくりと震える。
アエルロトはそれには答えず、その手を逃がすまいとするかのようにしっかり引き寄せて、ゆっくりと唾液を絡ませていった。
滴るほどに湿らせると、やっとアエルロトは指から口を離した。
「で、これをどうすればいいんだ」
零してしまわないようにと指を傾けたりしながら、シュバルマンは困惑したように訊ねる。
「あまり言葉で細かく説明するのもどうかと思うのですが」
アエルロトはそう言いつつも、まるで子供に何かを教えるかのように丁寧に、その行為の内容を説明した。
言われた通りに素直に従うシュバルマン。
ある程度まではその都度次の手順を話していたアエルロトが、少しずつ言葉少なになっていく。
「だ、大丈夫か、アエルロト」
言われた通りに動かしているだけなら聞くまでもないと思うものの、シュバルマンは心配になって声をかけた。
だが、必死に声を抑えているせいなのか、うなずくだけで言葉は発しない。
始めの予定では、三本目の指が入るくらいになったらと話していたのだが、指が予想よりも太かったためなのか、すでに体内に入り込んでいる二本だけでも動くたびに締め付けられ、アエルロトの顔が何かに耐えるかのように歪む。
その表情と、抑えながらも漏れる吐息と、指に与えられる感覚に、シュバルマンのほうも耐えられなくなっていく。
「もういい、かな……?」
答えを待たずに、シュバルマンはそっと指を引き抜いた。
「……っ、でも、貴方のは、その……」
言外に、今の状態ではまだ受け入れる自信がないことを示すが、アエルロトのその言葉は退けられた。
「すまない、ちょっともう我慢できな……」
謝罪の言葉もそこそこに、先に口づけて声を閉じ込めた。
次の瞬間、舌を絡めていたら噛み千切られてしまったかもしれない勢いで、アエルロトが歯を食いしばった。
先ほどまで指が支配していたその場所に、もっと熱く猛るものが打ち込まれている。
閉じたまぶたの端から涙が滲み、シュバルマンの背に回された手は爪が食い込むほどに力が入っていた。
「す、すまない、俺……」
シュバルマンのほうも、これまでにないきつさに少し困惑していた。
それだけあの薬液に助けられていたのかと思うと、今の状態が申し訳なくて仕方なかった。
これは明らかに痛がっている。
「少し、待って……くださ……」
しがみつきながらアエルロトが声を絞り出す。
「でもこれ、一回やめたほうが、いいよな」
シュバルマンはできるだけ動かないように抱きしめ返しながらそう訊ねた。
だが、アエルロトは小さく首を横に振る。
「だいじょぶ……です、から」
少しの間ゆっくりと動いてくれればと、アエルロトは告げる。
とても大丈夫そうには見えないのだが、その内慣れると主張する。
「ただ、声が……」
恐らく抑えられないとのことで、先ほどまで目隠しに使っていた布を取ってくれと言う。
シュバルマンは視界の端にそれを見つけ、やはりなるべく動いてしまわないように手を伸ばすと、それを手繰り寄せてアエルロトに渡そうとした。
が、しがみついている腕を離せないのか、なかなか受け取ろうとはしない。
「どうすればいい?」
「噛ませて、くださ」
あまり器用なことができる体勢ではなかったが、少しでも咥えやすいようにと、シュバルマンはその布を幾重かに細長く畳み、アエルロトの口元に差し出した。
それをしっかりと噛みしめて、アエルロトはうなずいて見せる。
「じゃあ、その……いくぞ。もし辛かったら、言うのは無理だろうから、殴るなりなんなりで伝えてくれ」
始めは本当に慎重に、ゆっくりとしか動くことができなかった。
苦しそうだからという以前に、きつくて動きにくかったのだ。
少しずつ、慣らすかのようにゆっくりと体をずらす。
アエルロトは痛みに耐えようとしてか強くしがみつきながらも、特定の箇所に刺激を受けると痛みとは別の要因で体が震えていた。
そんな繰り返しのせいか、次第に身体が解れていくのが、双方ともに感じられていた。
いつ頃からか痛みは消え、ただもたらされる快楽に互いに震え、さらに求めた。
今まで目隠しをされていたシュバルマンは、初めて見るその表情に、相手の性別など忘れるほど「何か」を感じていた。
征服欲なのか、情欲なのか、自分でもよくわからなかった。
ただ普段のすましたような笑顔や、冷静な視線からは考えられないような乱れ方に、吸い込まれるように見入っていた。自分の雄としての能力が相手にそうさせているという事実が、快感だった。
「アエルロト……」
呼ぶなと言われていたその名が口をついて出る。
やはりそれは嫌なのか、アエルロトは咥えていた布に手を伸ばし、それを外そうとした。
だがそれを、シュバルマンの腕が止める。布に指が触れる前に、アエルロトの手を床に押さえつけた。
「……っ!」
「アエルロト」
何をするのかと抗議するような瞳でにらみつけるアエルロトを、シュバルマンは真っ直ぐ見返して再び名を呼んだ。
アエルロトは目を細め首を振る。呼ぶなと目で訴える。
それでもシュバルマンはやめなかった。
最後の瞬間まで、その名を囁いていた。
◇◇◇
出だしが出だしだっただけに、時間も遅くなり、またアエルロトがそれ以上を拒んだため、この夜は一度だけで眠りにつくことになった。
一式しか布団は敷いていないままだったため、狭い中に二人で並んでいた。
ただ、アエルロトはずっと背を向けたままだった。
一言も話さぬまま、すぐに眠りに落ちていた。
眠ってしまえば拒まれることもないだろうと、シュバルマンはそっと手を伸ばしかけたが、思い直したように引っ込めて起き上がった。
服は着なおしたものの、同じ布団で寝ているところを何かの拍子で目撃されても困るだろうと、荷物を片付けもう一式の布団を敷いた。
そして少しだけ考えた後、アエルロトを抱きかかえてそちらの布団に移動させた。
途中で目を覚ますかとも思ったが、少しまぶたが震えただけで目覚めはしなかった。
なぜわざわざそんなことをしたのか、シュバルマンは自分でもよくわからなかった。
ただ、汗などで汚れてしまっていた寝床にアエルロトを寝かせておくことが、なぜか忍びないと思えたのだ。
自分ならどうせ元々よく汗もかくし、などとと、誰に言い訳する必要もないのに自答していた。
「俺……何か変、だな」
失われた要塞で檻に閉じ込められた際、ただの演技ですらあんなに嫌だったのに、違和感がないどころか、激しく求めてしまっていた自分にシュバルマンは驚愕する。
今まではまだ、想像の中でイリシアを抱いていた。だからまだ、自分をごまかせていた。
それが今夜は。
アエルロト本人の顔を見て、それでもなお求めてしまう衝動を抑えられなかった。
別の夜に、「健康な男性なのだから仕方ない」と言われた言葉を思い出す。
そういう欲求が強い時期なのだろう、と。
しかし本当にそれだけで済む話なのだろうか。
一体自分はどんな顔で彼を抱いてしまっていたのだろうと、ふと考えた時。
一瞬だけ、遠い昔に見た誰かの顔を思い出した。
誰なのかの判別はつかなかった。
ただ、嫌悪と恐怖を強く感じていた。
欲望に満ち、どことなく狂った光を宿した瞳……。
自分もそんな顔をしていたのだろうかと思うと、背筋がぞくりとした。
そんな嫌な気分は忘れてしまおうと、シュバルマンは軽く頭を振って寝床に突っ伏した。
まだかすかにアエルロトの匂いが残っていた。
熱に浮かされたようだった瞬間に思いを馳せて瞳を閉じる。
その行為の異常さに、気づかない振りをしたまま。
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えーと、一部というかあちこちに「俺の妄想設定」が紛れ込んでおりますw
というかその設定を今度描いていくための伏線的なものというかですね。
なんというか伏線展開のためだけに冗長になってしまった感もあったりします。
あと状況説明が長いというか。
いちゃこらするまでの前置きが長くなるのが悪い癖なようで……
次辺りは、書く書く言って結局書けてないミチェロトの番外編的なものか、もしくはイザン×ロトの番外編的なものになるかと思います。
イザロトはそれだけ単体というか、そこだけで完結する話の予定です。
まあイザロトと言いつつ、メインはバルロトなんですけどね。
イザンは横恋慕状態というか。
ついったーで萌え語りしているうちに、気づいたら一本プロットが出来上がっていた、という代物です。
そこから起こしたプロットがすでに書きあがっている分イザロト話のほうが早く書けると思うので、ミチェより先にイザンのほう書いちゃうかもです。
ただ心赴くまま
鼻を豚に変えられてしまったデイジーを助けるため、グリンデルに着いてからずっとクロモドと呼ばれる魔法師を探していた一行。
結局それは人違いではあったのだが、それをきっかけとして出会った魔法師クロモドは、精霊クインシーの病を治すためにと、オボロスのひとつである『治癒の石』を探したいとのことで、半ば強引に遠征隊に加わった。
シュバルマンが探しているのもその石ではあったが、クインシーの治療を終えた後なら持ち帰ることも可能だろうと、これといっていがみ合うこともなかった。
ただ、クロモドの人を避けるかのような性格のせいか、素直に「仲間に入れて欲しい」といった申し出ではなかった辺りに、ピンコやシュバルマンは少し不安を感じたりもしていた。
◇◇◇
クロモドの父の“失敗作”であった森は、「毒が発生している」との噂のせいであまり人なども近寄らない状態ではあった。だが、それが真実ではないと知っているクロモドの提案によって、遠征隊とナシプ族たちは森林を通り別のナシプ族の隠れ里を目指すことになった。
『毒された森林』と呼ばれるようになったその森は確かに異様で、毒が出ていると言われても違和感はないくらい、色も形も奇妙な植物が多かった。毒はないにしても、クロモドの父が失敗作と嘆き人を遠ざけたのもうなずける。
その道中も、クロモドは聞かれたことには答えるものの、自ら多くを語ろうとはしなかった。
部屋に篭って研究していることが多いからなのか、肌はとても白い。髪や目の色からして元々色素が薄めなのかもしれないが、暗い森の中で見るその魔法師の姿は、どことなく神秘的だった。
「口さえ開かなければねー……」
ぼそっと呟くピンコの声に、ソーマは苦笑する。
何かをできるかできないか、などを問えば必ずと言っていいほど締めに「大魔法師だからな」とつくその口癖は、ある意味彼の精神的な部分が幼いものであることを物語ってしまっていた。
実力に関しては、それが決して大げさではないということは、それまでのやりとりでわかってはいたのだが。
「ふつー自分で自分のことそんな風に言わないって」
十一歳のピンコにそう言わせてしまうというのも、二十八歳だとは信じがたい。
「俺のひとつ上、なんだよな」
ピンコのぼやきを聞きながら、うーんとシュバルマンはうなる。
やはり部屋に引きこもり、村人との接触まで避けていたせいなのだろうか。
クロモドは人付き合いなどが苦手なように見受けられた。
「シュバルマンさんは騎士をなさってたんですよね。上下関係なども厳しいでしょうし、そういった中で過ごされていたから、きっと無意識のうちに人との付き合い方を覚えられてるんですよ」
アエルロトはいつもの静かな笑みを湛えたままそう言った。
「そういうおまえはどうなんだ、アエルロト。放浪の騎士って言ってたが、いつ頃からそういう生活なんだ?」
直情気味で何でも正面からしか立ち向かえないシュバルマンから見れば、アエルロトのほうがずっと人付き合いに慣れているように見え、そう訊ねる。
「私ですか? さて、いつからでしたか……」
少し思い出そうとするようなそぶりを見せながら、結局答えずに歩き続けるアエルロト。
実を言ってしまえば、アエルロトにはクロモドのことがわからないでもなかった。
アエルロト自身、部屋や家とまではいかないものの、狭い世界に囚われ、そこでの暮らしがすべてであった時期があったから。
そしてその視野の狭さから、過ちと言えなくもない行いをしてしまっていたから。
「おまえは二十三って感じしないよな」
「それはどういう意味でです?」
クロモドとアエルロトを見比べながら言うシュバルマンに、アエルロトは笑みを浮かべたままの顔で訊ねる。
「んー、なんていうか、いろいろ勝てる気がしないっていうか」
そう言ううちに、シュバルマンはふいっと顔を背けた。
横を向いた顔はどことなく赤い。
「人には得手不得手というものがありますから……私もまだまだ未熟な部分はありますよ」
シュバルマンが何を思い出したのかを察して、それ以上追求はせずにアエルロトはその話を終えた。
「ねー、うちで一番まともな男ってソーマなんじゃない?」
ピンコはそうため息交じりにこぼす。
「ハハハ……そんなことはないと思います、よ」
ソーマはどう答えていいかわからず、笑うしかなかった。
◇◇◇
やっとのことでナシプ族たちの隠れ里についたものの、そこも安心できる場所ではなかった。
隠れ里の周辺は、おかしな寄生虫の蔓延によって危険な状態にあったのだ。
しかもそれが、王国の錬金術師たちの仕業だとかで、里の者たちは人間にはあまりいい目を向けてくれなかった。
イリシアが寄生虫によって傷を負い、操られてしまうと知って、一行は解決のために錬金術師たちの研究所を訪れた。そしてその錬金術師本人たちが虫によって壊滅しているのを発見する。
たったひとり生き残ったブリンデルを寄生虫から解放して捕らえ、里に戻った。
アイリートがブリンデルから聞き出した話により、研究所から治療剤を手に入れてくることになった。
その際、ナシプ族の青年キノネットまでもが寄生虫によって傷を負ってしまったが、無事治療剤を持ち帰ることができ、イリシアもニ、三日安静にしていれば大丈夫だろうということで、しばらく里に厄介になることとなった。
この村のナシプ族たちも、失われた要塞で見たものと似た、テントのようなコテージのような、簡素な部屋で寝食していた。
すぐに用意できる数は少なく、また規模も小さいものばかりで、避難してきた多くのナシプ族たちにそれを割り振るのにも時間がかかっていた。
「何でしたら、僕たちは倉庫などの片隅でも構いませんよ」
ソーマがアイリートにそう伝えたが、主にケガをしたイリシアなどはきちんと休ませるべきだとして、数少ないテントをいくらか回してくれていた。
イリシアから離れたくないというピンコと、少しでも体力回復をと看病につくナギは、結局イリシアと同じテントで過ごすことになった。
ピンコが幼く体が小さいため、それでも困ることはない。
問題は男性陣だった。
ソーマとシュバルマンは、なぜかあまりクロモドのほうを見ていなかった。
見ていない、というよりは、見ていない振りをして様子を伺っていた、というべきだろうか。
どちらもどことなく、「同じ部屋にはなりたくない」という空気を醸し出していた。
なぜなら、クロモドが錬金術師の研究所の近くで、二人とアエルロトしか知らないはずの『赤毛の盗賊団』の話を持ち出したからだ。
本人は、思い浮かんだイメージから連想した言葉を言ってみただけ、とは言っていたものの、それだけでそこまで的確に弱みを突くことなどできるものだろうか――シュバルマンもソーマも、「もしかしたらクロモドは心が読めたりするのではないか」などと少しだけ恐れを感じていたのだった。
アエルロトは自身にとっての弱みではないためか、その場は笑って見ていたが。
「ねーねー、だいまほーし様はやっぱり神経質なほう?」
ピンコがふとクロモドに問いかけた。
「……細かいことは気にはしないが」
どう考えても気にしそうな表情でそっけなく答えるクロモド。
「寝るときうるさいのも平気?」
続けて問うピンコの顔には、うっすらと含み笑いが浮かんでいた。
「眠るときは静かなほうがいいに決まっているだろう」
なぜそんな当たり前のことを聞くのか、とでも言わんばかりに怪訝な顔で、クロモドは答えた。
「だよねー。じゃあバルマンと同じテントはやめたほうがいいよー」
いびきがもんのすごくうるさいから、と、悪戯っぽく笑いながらピンコはシュバルマンのほうを見た。
釣られてクロモドの視線もそちらを向く。
目は「それは本当なのか」と問いたげだった。
「……自分じゃいびきはわからんが、そうらしいから、その」
実際には聞かれてもいないのに、シュバルマンは言い訳めいた言葉をぽつぽつと吐き始めた。
「たぶん俺よりはソーマとのほうが静かに眠れるんじゃないかと」
シュバルマンは心のどこかで、クロモドをソーマに押し付けてしまいたいと思ってしまっていた。
クロモドの得体の知れなさが怖いだけではなく、もうひとつ別の理由もあったためだが。
「私は明日も少し、この里の周辺を観察して回りたいと思っているからな。できれば夜は静かに眠りたい」
ふむ、と鼻を鳴らして同意を示しているつもりなのか、クロモドはそう続けた。
「ハハ……確かにシュバルマンさんとでは、クロモドさんは眠れなさそうですね」
ソーマがどこか諦めたような引きつった笑顔でそう呟いた。
その言葉で、本当にシュバルマンのいびきがうるさいのだなと理解したクロモドは、アルポンスを連れて割り当てられたテントのひとつへとさっさと歩き出した。
気づけばもうとうに日は暮れていて、個々のテントの灯りや、夜になると光を放つ虫や花などがぼんやりと輝いている。
ソーマはあまり軽いとはいえない足取りで、クロモドに続いてテントに入っていった。
ピンコたち女性陣は、すでにイリシアを休ませていたテントに入ろうとしていた。
外に残された“人間”は、シュバルマンとアエルロトだけとなった。
ふと、改めて周囲を見回して、シュバルマンは少しだけナシプ族たちの視線が気になった。
仕方のないことかもしれないが、自分たちはまだ信用されていない。
恐れるような瞳、憎しみの篭った視線……疑い窺うような顔。決していい感情など持ってはいない目があちこちから二人を見ていた。
「アエルロト、俺たちも……」
「あ、シュバルマンさんは先に入っていてください。私はちょっとだけ調べ物をしてから行きます」
視線に晒されていることに耐えられなくなったシュバルマンが声をかけると、思い出したかのようにアエルロトはそう言って、小さく微笑んだ。
「お? おお、そうか。わかった。き、気をつけろよ」
少し拍子抜けしたような顔でシュバルマンはうなずき、そのまま背を向けて歩き出すアエルロトを見送った。
アエルロトはナシプ族たちの視線もまったく気にしていないのか、思うままにあちこち見て歩いているようだった。
相変わらず何を考えているのかわからない。そう思いながらシュバルマンは、まだ誰もいないテントに入り込んだ。
◇◇◇
テントの中にはある程度暮らせるだけの備品が準備されていた。
布団らしきものが畳まれて隅に置いてある。
宿などに泊まればベッドで眠れるが、そんな贅沢なものはない。
とりあえず一式敷いてみて、シュバルマンはそこに寝転んだ。
あまり厚みのないそれは、慣れていない者には体が痛くなりそうな、申し訳程度の綿しか入っていないようだった。
寝返りを打ってみながら、ふと、「ここでは嫌がるだろうか」などという考えが浮かぶ。しかも、自分が想いを寄せている女性の姿ではなく、別の人物の姿で。
シュバルマンは一瞬背筋がヒヤリとした。
「何考えてるんだ俺は……」
今までずっと、そういった行為の際には目隠しをされている。
そして想い人の姿を思い浮かべるようにと言われ、そうしてきた。
だから、実際に行為を共にしている相手のその瞬間の顔は、見たことがない。
それを少しでも、「見てみたい」と思ってしまったのだ。
「見てどうするんだ。そんな意味のないこと」
シュバルマンは呟くような声で自問する。
しかし本当に意味はないのか。
想いを伝えてさえいない女性を想像の中で抱いていること自体、非常に悪いことをしているような気分なのに、さらに実際に行為に及んでいる相手のことを、最中には一切考えていないのだ。
「俺、もしかしてものすごく酷いことをしてるんじゃないか」
しかも一度に二人もの人物に対して。
そう考えが至った瞬間、シュバルマンは無性に焦りを感じて飛び起きた。
体を起こしたとたん、少しテントの周囲が光った気がした。
その光はすぐに消えてしまって、色さえはっきりとはわからなかったが、テントをぐるっと取り囲んでいたかのように感じられた。
少し呆けてしまっていると、入り口をめくり上げて黒い影が入り込んできた。
「アエルロト……今何か外が光らなかったか?」
その人物が誰なのかを確認すると、シュバルマンはそう訊ねた。
「ああ……少し用心のための魔法をかけさせていただきました」
用心? と聞き返すと、アエルロトはただうなずいて、それ以上詳しいことは何も言わなかった。
シュバルマンは布団の上にただなんとなく座ったままで、所在なさげに伸ばした足のつま先を左右に揺らしていた。
お互い無言のまま時が過ぎていく。
沈黙を破ったのはアエルロトだった。
「敷くのは一式だけでいいんですか」
「えっ」
黙っていた間、アエルロトはテントの内部を見回していた。
シュバルマンは言われて気づいたが、自分の敷いた布団がその位置のせいで、他の荷物などを片付けない限りもう一式が敷けない状態だったのだ。
「あ……えーっと、その、だな」
つい先ほどした想像に再び至ってしまう。
一度でいいから見てみたいという願望。
この澄ました笑顔は、行為の最中はどのような変化を見せるのだろうか。
だがその想像は、今夜もそれを行うという前提のものだ。
二人だけで同室になるたびにそれを期待してしまっている自分に気づき、シュバルマンは羞恥を覚えた。
(どれだけ飢えてるんだ俺……)
つい、赤くなって黙り込んでしまっていた。
アエルロトから投げかけられた質問にも答えないままで。
その無言を答えだとでも受け取ったのか、アエルロトはマントやベルトなどを外し始めた。
普段寝ているときのような格好になるまで装飾品なども外していく。
シュバルマンはただそれを眺めていた。
適当に脱ぎ捨てる自分とは違い、どこか優雅ささえ感じさせる指や腕の動きを、ただ眺めていた。
「あまり見つめられると恥ずかしいのですが」
視線に気づいたアエルロトが、動きを止めてそう言った。
「シュバルマンさんはそのまま寝るつもりですか?」
テントに入ってすぐ、そのままの格好で布団を敷き、寝転んでいたのだ。
まだ鎧もつけたままだった。
「いや、脱ぐ」
そう言って、やはり無造作に鎧を外して転がす自分に気づき、シュバルマンは手を止めた。
騎士として暮らしていた頃の自分は、まだもう少し気品というものがあったような気がする。
傭兵となって、他の荒々しい兵士たちと共に過ごしたり、一人旅などをするうちに、少し行動が荒くなってしまっていたかもしれない。シュバルマンはそう思った。
そして、アエルロトはどんな暮らしをしてきたのだろうかと、そちらへ視線を移す。
アエルロトは立ったまま、いつもの静かな笑顔でシュバルマンを見下ろしていた。
「暗いと外せない細かい金具が残っていないようでしたら、少し灯りを下げてもいいですか」
見れば片方の手はランプのひとつに伸ばされていた。
シュバルマンが鎧を外すのを待っていたようだ。
「ああ、見えなくても全部外せる、大丈夫だ」
暗闇の中でも、逆に身につけることもできるほど、鎧の扱いには手馴れていた。
答えながら次々と金具やベルトを外していく。
そして先ほどよりは丁寧に、鎧を置いていった。
段々と暗くなっていくテントの中で、体の動きを妨げるほどの硬度を持つ装備はすべて外していく。
一つの小さな灯りだけを残して、他のランプは灯を落とした。
残った光源が二人の影を揺らめかせる。
シュバルマンの横にひざまずくようにして身を寄せたアエルロトの手には、いつもシュバルマンから視界を奪ってしまう布が握られていた。
「なあ……それ、つけないでするのはだめなのか」
「見えないほうが想像しやすいでしょう?」
見てみたいからなどとは言えずに、遠まわしに拒否してみるが、それだけでアエルロトを止めることはできそうもなかった。
仕方なく、シュバルマンはその布に巻かれる。
まぶたを開いても、光が弱すぎて布越しに影を追うことすらできない。
離れてからでは掴むこともままらならないと感じ、まだ頭の後ろに回されたままだったアエルロトの手に、シュバルマンは自分の手を重ねた。
見えないからこそ余計に感じられる、自分の手との違いにふと力がこもる。
男の割りには細くてなめらかな指。
大剣を扱うシュバルマンの、力強く骨太で皮も厚い手とは、まるで住む世界が違うかのようだ。
出会った頃、剣術を教わりたいなどと言っていたが、結局教えたことなどなかった。
なぜなら、アエルロトは腕力で剣を振るうことなどなかったからだ。
彼の扱う剣は、魔法らしきものを操るための触媒でしかなかった。
手の中で、体の前で、その剣は浮いたままくるくると回り、魔法陣なのか術法陣なのか、そういった類の不思議な模様を描き出す。
一緒に戦っていても時折見惚れてしまうくらい、美しい動作。
「あの、あまり強く握られると痛いのですが」
苦笑するような声に、シュバルマンははっとして力を緩める。
力が緩んでも、アエルロトはその手を引き抜くことはせず、素直に握られたままでいた。
見えない状態で、このままでは自分の側が押し倒されそうでどうしようかとシュバルマンは一瞬悩む。
先ほど寝転んだ感触では、アエルロトを組み敷いてしまうのも申し訳がない気もした。
少しでも乱暴に扱ったら壊れてしまうのではないか――そう思えてしまうほど、指先から伝わってくる感覚が繊細だった。
「もしかして、躊躇されてます? 私なら冷たい石の床でも平気ですから、気にしなくていいですよ」
見透かされた上に妙に具体的な例を出されて、シュバルマンは戸惑った。
そんな場所で、一体どんな状況で誰と……気になり始めると止まらなかった。
引き寄せて倒れこむようにしながら、体を捻るようにしてアエルロトに覆い被さった。
「そんなとこでしたことがあるのか」
「さあ……どうでしょう」
シュバルマンとしては真面目に訊ねたつもりだったが、結局そのままはぐらかされてしまった。
言葉を続けようとしても、口づけで塞がれてしまったからだ。
仕方ないので諦めて、シュバルマンはそのまま口づける箇所を変えてゆく。
首筋から鎖骨へ下がろうとしたところで、やはりまた上も着たままであることに改めて気づく。
訊ねても脱ぐ必要はないと言うに決まっている、シュバルマンはそれを思い出して何も言わずに、裾から服の中に手を滑り込ませ、ただ撫でているフリをして少しずつたくし上げていった。
ふと、背に回した指先が、左肩寄りの一部に違和感があることを告げてくる。
傷痕か、火傷の痕だろうか。
気にはなったが、そういった事に触れられたくはないだろうとすぐに思い直し、指も離した。
アエルロトのほうは触れられたことに気づいているのかいないのか、すでに荒れてきている呼吸に混じる声を抑えようと必死なようで、反応からではよくわからなかった。
背に回していた指を再び正面へと這わせ、それまでは触れたことのなかった、小さな突起を探り当てる。
「っ!?」
触れた途端、驚いたのかアエルロトが息を飲む。
シュバルマンは気にせずに、その部分に指を押し付けてみたり、つまんでみたりを繰り返した。
どうすればいいものなのかもよくわからず、また女性と男性が同じように感じるのかなどもわからないが、本能に近い感覚でそうしたいという欲求に駆られていた。
「んっ……ぅ……」
何か言ってくるだろうと思われるアエルロトのその口を、シュバルマンは先手を打って塞ぎにいった。
指先の動きに合わせるように声が漏れてくる。
やめさせようとしているのか、細い指がシュバルマンの指に絡みつく。
「もしかして、ここ弱いから触らせたくなかったのか」
目隠しされたままでは表情は見えない。
だが、喘ぐような息遣いが、アエルロトから余裕を奪っているという事実を伝えていた。
「そんな、ことは……ない胸を触っても、女性を想像しにくいでしょう」
どうしても余裕を見せたいのか、ごまかしたいのか、アエルロトは以前と同じ説明を繰り返した。
「気づいてないようだが、俺、今イリシアさんの名前は呼んでないぞ」
「……」
シュバルマンの言葉の意味を図りかねてか、それとも気づいたためなのか、アエルロトは口をつぐんで身動きを止める。
「イリシアさんは今、虫にやられた傷のせいで安静が必要な状態だ。そんな人に何かしようと思えるほど、俺は身勝手な男じゃない」
それがたとえただの想像であっても。
シュバルマンはそう告げた。
「……それでも、私とは性欲処理のためにしたい、と?」
アエルロトのその言葉に、軽蔑などの感情はこもってはいなかった。
ただ淡々と、普段のような冷静な声でそう訊ねた。
「そもそもおまえが持ちかけたのは、そういう交渉だろう」
イリシアさんがどうこうというのを持ち出したのは、俺にこういう行為を受け入れやすくさせるためだろう、そう続けて問うシュバルマン。
「そう、ですね」
どこか観念したかのような声でそう言うと、アエルロトは絡めていた指を緩めた。
自由になったシュバルマンの武骨な指が、再び同じ箇所を責め始める。
服を限界まで捲くり上げ、さらに位置を探りながら、もう一方に向けて舌を這わせた。そうして見つけ出したそれに、シュバルマンはそっと吸い付いてみた。
「はぅ、んっ」
弓なりに背を仰け反らせ、一度上がりかけた声を抑えたかのような息が漏れる。
今まで声を抑えていたのは、イリシアであると想像しやすようにするためだけだと考えていたシュバルマンは、一度唇を離して問いかけた。
「声、もう抑える必要ないんじゃないか」
その言葉に、少し呼吸を整えるような間を置いて、アエルロトは答えた。
「我々人間はナシプ族から警戒されています。交代で見回りの兵が近くまで来てるんですよ」
言われて初めて、この場所が宿などと比べてある意味かなり危険であることに気づき、シュバルマンは今更ながら赤面した。
「先ほどの術は、ある程度音が漏れないようにするためにかけたものでもあるのですが……すべては防げないので」
おかしな物音や声を聞かれてしまえば、何事かとその見回りの兵が飛び込んできてしまうかもしれない。
鍵をかけられるドアがあるわけでもなく、ただテントの生地が垂れ下がっているだけの入り口なのだから。
「ですので、できれば……あまり激しくはしないでいただけると……」
珍しく弱気というか、しおらしい声でアエルロトはそう言った。
さすがに他人に目撃されるのだけは避けたいのだろう。
そしてシュバルマンは、そんなアエルロトがどんな表情でそれを言ったのかを、どうしても見てみたい衝動に駆られていた。
だから、何も言わず、何の前触れもなしに、突然目隠しを自分で解いた。
「!」
一瞬合ったその目を、気まずそうに逸らしただけで、アエルロトは責めたりはしなかった。
目隠しをする必要もなくなってしまっていたからだ。
イリシアの振りを、する必要がなくなっていたから。
普段は一切見せることのない、どこか戸惑ったような顔。
上気して赤い頬に、潤んだ瞳。
シュバルマンはつい、まじまじとアエルロトのそんな様子を見つめてしまった。
「そんなに見ないでください。もし女性相手にそんな不躾な視線を送ったら、すぐに嫌われますよ」
叱るように言いつつも、真っ直ぐ見返すこともできずに、アエルロトは視線を彷徨わせていた。
「ああ、すまない、なんとなく珍しいというか、その」
珍しいという言葉に、アエルロトはため息をつく。
「こんな行為をしている時は、誰だって普段とは違う顔になりますよ」
もちろん貴方もね、と付け加えると、アエルロトは腹を括ったのか、シュバルマンの頬に手を添えて導くように口づけた。
「後になってから、男じゃ欲情できないとか言わないでくださいね」
「その心配はない」
妖しく笑うアエルロトに、シュバルマンは真顔で答え、そのまま首筋に顔を埋めるようにして呟いた。
「すでにしてる」
◇◇◇
貪るようにあちこち口づけあいながら、どちらも着衣が乱れに乱れた頃。
「あ、申し訳ありません、ちょっと」
何かを思い出したかのようにアエルロトがストップをかけた。
「どうした?」
どちらも呼吸が荒い。少しの会話をするにも、息を整えるための間が空く。
「忘れていたんですが、この暗がりだと荷物の中から探し出せないので」
初めはなんのことかとシュバルマンは首をかしげていたが。
「あー……、なんかの薬……」
女性であればほぼ必要ないというその薬液を、そういえば今日はまだ使用していないことに気づく。
「灯りつけて探すか?」
「この状態まできてそれもちょっと……」
暗さに慣れて多少目は効いているため、互いが大体どんな格好をしているかはわかる。
今灯りをつけたらとんでもなく気まずくなる。
「えーと、じゃあどうすれば」
シュバルマンは困ったように呟いて頭をかく。
「先に、指で解していただければ、なんとか大丈夫だとは思うので……」
そう言って、アエルロトはシュバルマンの右手を取って口元に引き寄せた。
そのまま、シュバルマンの指をしゃぶり始める。
「う……なんかくすぐったいんだけど……」
指先から与えられる舌の感覚に、シュバルマンは時々手を引っ込めようとするかのようにぴくりと震える。
アエルロトはそれには答えず、その手を逃がすまいとするかのようにしっかり引き寄せて、ゆっくりと唾液を絡ませていった。
滴るほどに湿らせると、やっとアエルロトは指から口を離した。
「で、これをどうすればいいんだ」
零してしまわないようにと指を傾けたりしながら、シュバルマンは困惑したように訊ねる。
「あまり言葉で細かく説明するのもどうかと思うのですが」
アエルロトはそう言いつつも、まるで子供に何かを教えるかのように丁寧に、その行為の内容を説明した。
言われた通りに素直に従うシュバルマン。
ある程度まではその都度次の手順を話していたアエルロトが、少しずつ言葉少なになっていく。
「だ、大丈夫か、アエルロト」
言われた通りに動かしているだけなら聞くまでもないと思うものの、シュバルマンは心配になって声をかけた。
だが、必死に声を抑えているせいなのか、うなずくだけで言葉は発しない。
始めの予定では、三本目の指が入るくらいになったらと話していたのだが、指が予想よりも太かったためなのか、すでに体内に入り込んでいる二本だけでも動くたびに締め付けられ、アエルロトの顔が何かに耐えるかのように歪む。
その表情と、抑えながらも漏れる吐息と、指に与えられる感覚に、シュバルマンのほうも耐えられなくなっていく。
「もういい、かな……?」
答えを待たずに、シュバルマンはそっと指を引き抜いた。
「……っ、でも、貴方のは、その……」
言外に、今の状態ではまだ受け入れる自信がないことを示すが、アエルロトのその言葉は退けられた。
「すまない、ちょっともう我慢できな……」
謝罪の言葉もそこそこに、先に口づけて声を閉じ込めた。
次の瞬間、舌を絡めていたら噛み千切られてしまったかもしれない勢いで、アエルロトが歯を食いしばった。
先ほどまで指が支配していたその場所に、もっと熱く猛るものが打ち込まれている。
閉じたまぶたの端から涙が滲み、シュバルマンの背に回された手は爪が食い込むほどに力が入っていた。
「す、すまない、俺……」
シュバルマンのほうも、これまでにないきつさに少し困惑していた。
それだけあの薬液に助けられていたのかと思うと、今の状態が申し訳なくて仕方なかった。
これは明らかに痛がっている。
「少し、待って……くださ……」
しがみつきながらアエルロトが声を絞り出す。
「でもこれ、一回やめたほうが、いいよな」
シュバルマンはできるだけ動かないように抱きしめ返しながらそう訊ねた。
だが、アエルロトは小さく首を横に振る。
「だいじょぶ……です、から」
少しの間ゆっくりと動いてくれればと、アエルロトは告げる。
とても大丈夫そうには見えないのだが、その内慣れると主張する。
「ただ、声が……」
恐らく抑えられないとのことで、先ほどまで目隠しに使っていた布を取ってくれと言う。
シュバルマンは視界の端にそれを見つけ、やはりなるべく動いてしまわないように手を伸ばすと、それを手繰り寄せてアエルロトに渡そうとした。
が、しがみついている腕を離せないのか、なかなか受け取ろうとはしない。
「どうすればいい?」
「噛ませて、くださ」
あまり器用なことができる体勢ではなかったが、少しでも咥えやすいようにと、シュバルマンはその布を幾重かに細長く畳み、アエルロトの口元に差し出した。
それをしっかりと噛みしめて、アエルロトはうなずいて見せる。
「じゃあ、その……いくぞ。もし辛かったら、言うのは無理だろうから、殴るなりなんなりで伝えてくれ」
始めは本当に慎重に、ゆっくりとしか動くことができなかった。
苦しそうだからという以前に、きつくて動きにくかったのだ。
少しずつ、慣らすかのようにゆっくりと体をずらす。
アエルロトは痛みに耐えようとしてか強くしがみつきながらも、特定の箇所に刺激を受けると痛みとは別の要因で体が震えていた。
そんな繰り返しのせいか、次第に身体が解れていくのが、双方ともに感じられていた。
いつ頃からか痛みは消え、ただもたらされる快楽に互いに震え、さらに求めた。
今まで目隠しをされていたシュバルマンは、初めて見るその表情に、相手の性別など忘れるほど「何か」を感じていた。
征服欲なのか、情欲なのか、自分でもよくわからなかった。
ただ普段のすましたような笑顔や、冷静な視線からは考えられないような乱れ方に、吸い込まれるように見入っていた。自分の雄としての能力が相手にそうさせているという事実が、快感だった。
「アエルロト……」
呼ぶなと言われていたその名が口をついて出る。
やはりそれは嫌なのか、アエルロトは咥えていた布に手を伸ばし、それを外そうとした。
だがそれを、シュバルマンの腕が止める。布に指が触れる前に、アエルロトの手を床に押さえつけた。
「……っ!」
「アエルロト」
何をするのかと抗議するような瞳でにらみつけるアエルロトを、シュバルマンは真っ直ぐ見返して再び名を呼んだ。
アエルロトは目を細め首を振る。呼ぶなと目で訴える。
それでもシュバルマンはやめなかった。
最後の瞬間まで、その名を囁いていた。
◇◇◇
出だしが出だしだっただけに、時間も遅くなり、またアエルロトがそれ以上を拒んだため、この夜は一度だけで眠りにつくことになった。
一式しか布団は敷いていないままだったため、狭い中に二人で並んでいた。
ただ、アエルロトはずっと背を向けたままだった。
一言も話さぬまま、すぐに眠りに落ちていた。
眠ってしまえば拒まれることもないだろうと、シュバルマンはそっと手を伸ばしかけたが、思い直したように引っ込めて起き上がった。
服は着なおしたものの、同じ布団で寝ているところを何かの拍子で目撃されても困るだろうと、荷物を片付けもう一式の布団を敷いた。
そして少しだけ考えた後、アエルロトを抱きかかえてそちらの布団に移動させた。
途中で目を覚ますかとも思ったが、少しまぶたが震えただけで目覚めはしなかった。
なぜわざわざそんなことをしたのか、シュバルマンは自分でもよくわからなかった。
ただ、汗などで汚れてしまっていた寝床にアエルロトを寝かせておくことが、なぜか忍びないと思えたのだ。
自分ならどうせ元々よく汗もかくし、などとと、誰に言い訳する必要もないのに自答していた。
「俺……何か変、だな」
失われた要塞で檻に閉じ込められた際、ただの演技ですらあんなに嫌だったのに、違和感がないどころか、激しく求めてしまっていた自分にシュバルマンは驚愕する。
今まではまだ、想像の中でイリシアを抱いていた。だからまだ、自分をごまかせていた。
それが今夜は。
アエルロト本人の顔を見て、それでもなお求めてしまう衝動を抑えられなかった。
別の夜に、「健康な男性なのだから仕方ない」と言われた言葉を思い出す。
そういう欲求が強い時期なのだろう、と。
しかし本当にそれだけで済む話なのだろうか。
一体自分はどんな顔で彼を抱いてしまっていたのだろうと、ふと考えた時。
一瞬だけ、遠い昔に見た誰かの顔を思い出した。
誰なのかの判別はつかなかった。
ただ、嫌悪と恐怖を強く感じていた。
欲望に満ち、どことなく狂った光を宿した瞳……。
自分もそんな顔をしていたのだろうかと思うと、背筋がぞくりとした。
そんな嫌な気分は忘れてしまおうと、シュバルマンは軽く頭を振って寝床に突っ伏した。
まだかすかにアエルロトの匂いが残っていた。
熱に浮かされたようだった瞬間に思いを馳せて瞳を閉じる。
その行為の異常さに、気づかない振りをしたまま。
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えーと、一部というかあちこちに「俺の妄想設定」が紛れ込んでおりますw
というかその設定を今度描いていくための伏線的なものというかですね。
なんというか伏線展開のためだけに冗長になってしまった感もあったりします。
あと状況説明が長いというか。
いちゃこらするまでの前置きが長くなるのが悪い癖なようで……
次辺りは、書く書く言って結局書けてないミチェロトの番外編的なものか、もしくはイザン×ロトの番外編的なものになるかと思います。
イザロトはそれだけ単体というか、そこだけで完結する話の予定です。
まあイザロトと言いつつ、メインはバルロトなんですけどね。
イザンは横恋慕状態というか。
ついったーで萌え語りしているうちに、気づいたら一本プロットが出来上がっていた、という代物です。
そこから起こしたプロットがすでに書きあがっている分イザロト話のほうが早く書けると思うので、ミチェより先にイザンのほう書いちゃうかもです。

