2008年07月09日
FEZ 読み物短編『継がれしもの』
あれもこれも、いろいろ途中だったりするのですが、
なぜか突然思い浮かんでしまったシチュというか
シーンというかがありまして……勢いで書いてしまいました。
ゲームのシステム上は、アカバンにならない限り「本当の死」がない状態なせいか、それとも戦争が題材なゲームなせいか、
どうしても「死」や「生命」について書きたくなっちゃうんですよね。
最近はちょっとBLばっかり書いちゃってますが、これはノーマル系です。
というかですね、昔似たような題材で書いたこともあったりして(そっちは近未来なSFとファンタジーの混じったようなのでした)。
自分がBL系なものを書けちゃうのは、実はこの話のテーマと同じものが根幹にあるからだったりするからかも。
あんまり先に多くを語るとネタバレになりそうなのでここまでで、
読み物自体は折り返し部分の続きから……
なぜか突然思い浮かんでしまったシチュというか
シーンというかがありまして……勢いで書いてしまいました。
ゲームのシステム上は、アカバンにならない限り「本当の死」がない状態なせいか、それとも戦争が題材なゲームなせいか、
どうしても「死」や「生命」について書きたくなっちゃうんですよね。
最近はちょっとBLばっかり書いちゃってますが、これはノーマル系です。
というかですね、昔似たような題材で書いたこともあったりして(そっちは近未来なSFとファンタジーの混じったようなのでした)。
自分がBL系なものを書けちゃうのは、実はこの話のテーマと同じものが根幹にあるからだったりするからかも。
あんまり先に多くを語るとネタバレになりそうなのでここまでで、
読み物自体は折り返し部分の続きから……
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『継がれしもの』
その少女は記憶を持たなかった。
自分がどこから来たのかも、
どこへ行こうとしていたのかもわからなかった。
そして自身の名さえも、知らなかった。
◇◇◇
「忘れちゃったのかい?」
首都近くの森で少女を見つけた青年は、優しく訊ねた。
少女は否定も肯定もせず、ただ戸惑いのまなざしを返した。
忘れたのかすらわからない。
何も。
わからなかった。
「ここは夜になると魔物が出るから、とりあえずうちへおいで」
青年は少女を自宅へ連れ帰った。
◇◇◇
青年は駆け出しの医者だった。
世間に流通している高価な薬が手に入らない庶民を治療したり、
薬では治らない傷――心に受けた傷を――癒す方法を研究していた。
記憶障害というのは、単純に頭部への物理的な衝撃で起こる場合と、
心に傷を負った際、その心を守るために自ら「忘れてしまう」
場合があると、青年は学んでいた。
少女の頭部に異常は見当たらなかった。
それならば、恐らくはどこかで酷い目に遭って、
記憶を封じてしまったのだろうと考えた。
無理に治そうとして記憶を呼び起こすと、逆に少女の命を
奪うことになりかねない。
青年は、少女を助手として雇ったことにして側に置き、様子を見ながら
治療の方法を模索することにした。
それと同時に、尋ね人などの張り紙がないか、
首都や近隣の町村で探し続けた。
少しでも手がかりはないかと、出会った森の探索も行った。
◇◇◇
「先生、あまり無理はしないでください」
ある日、疲労からか倒れてしまった青年の手をとって、少女は言った。
「私は記憶などなくても、先生のお手伝いをして、患者さんが
元気になるのを見るだけで、十分幸せを感じています」
青年が自分のために休む間も惜しんで、働き、探し、
研究を続けることに、少女は胸を痛めていた。
「たとえ君がそうでも、もしかしたら君を探して心配している人が
いるかもしれない。僕は、誰かが苦しんでいるなら、助けたいんだ」
だから、医者になった。
青年はそう言って少女に微笑みかけた。
少女を失って悲しんでいる人がいるかもしれない、そう思うと
居ても立ってもいられないのだ、と。
「体があまり丈夫じゃなくて、魔道も学んだけど戦場に出られるほどの
腕がない。だから学校で、戦闘ではなく医学を学ぶ道を選んだんだ」
学んだ知識で救えるものがあるのならば救いたい。
だから、少女を連れ帰った。
そう言われて少女は、初めて涙を流した。
◇◇◇
倒れてしまっては救えるものも救えない、と少女に言い聞かされて、
青年は少しだけ探索や研究に充てる時間を減らした。
そしていつものように、診療所にやってくる患者たちを診ていた、
ある日のこと。
「この診療所に、白髪に淡い青の瞳の少女がいるだろう」
青い魔道士向けの部隊服を纏った長身の女が、やはり青い制服を
身につけた男女を率いて、診療所のドアを開けるなり言った。
「彼女を、ご存知なのですか?」
青年は、少女の出自がわかるかもしれないという期待で腰を
浮かせたが、女の持つ冷ややかな視線に気づき、胸がざわついた。
会わせてはいけない、そう思ったが、最初の一言ですでに
彼女の存在を教えてしまっている。
「いるのだな? その娘はナイアス公の実験により生まれた
ホムンクルスだ」
女の言葉が一瞬理解できず、青年は時間が止まったかのように
立ち尽くした。
「実験中の事故で行方知れずになっていた。回収命令が出ている、
返してもらおう」
「回収って……彼女は物じゃないだろう」
「何を言っている。魔道によって作り出された“物”だ。
ナイアス様の所有物だ」
淡々と述べる女の瞳は、どこか狂信的な光が宿っていた。
「先生、患者さんです、か……?」
間が悪く、奥の部屋から少女が顔を覗かせた。
その顔を見て、女は悦に入ったような笑みをこぼした。
「いたぞ、アレだ。連れ戻せ」
それまで無言で佇んでいた制服の男女が、素早い身のこなしで
少女に迫った。
「待て、彼女をどうする気だ、彼女は記憶が……」
「記憶? そんなものあるわけないだろう」
慌てて止めようとする青年に黒く光る杖を突きつけて制し、
女は冷ややかに言った。
「彼女は生み出されたばかりなのだよ、記憶など元々ない」
実験体であることすら把握する前に、外の世界に彷徨い出たのだろう。
そうして自分が何者なのかもわからぬまま、青年と出会ったのだ。
「素材に使われている物がちと物騒なものなのでな……
回収できない場合はその場での処分を命じられている。
そんな危険なものと良く暮らしてたな」
女はまるで嘲るように青年を眺めて言った。
「かわいらしい外見に騙されて情でも移ったか?
男とは浅ましい生き物だな」
「何を……っ!」
青年は怒りで頭に血が上り、とっさに女の持つ杖を掴んでいた。
しかし女は冷静に何かを呟いただけだった。
それだけで、青年の体に強烈な痛みが走りぬけた。
「……っ!?」
「先生っ!!」
青年の下肢はその場に氷漬けにされてしまった。
床から突き出た複数の氷の刃が、腹部辺りまで体を貫いている。
青白い氷の表面を、真っ赤な液体が伝う。
「馬鹿め。私に逆らうのはナイアス公に、国に逆らうのと同じこと。
なんならおまえの体も持ち帰って実験材料にしてやろうか」
女は暗い眼差しでにやつきながら妙に赤い舌で唇を舐めた。
「隊長、それは……」
少女を押さえていた男の一人が、慌てたように声を上げる。
「黙れ。私の命令はナイアス様の命令だと何度言えばわかる」
杖を突きつけられて男は黙った。表情には怯えが見える。
冷たさと痛みに耐えながら、青年は、女が恐怖で部下を統率して
いること、ナイアス公に心酔していること、そして今ここでの行いは、
恐らく独断での暴走であることなどを察していた。
こんな女に彼女は渡せない。
ナイアス公の元には返さずに、酷いことをするに違いない、そう思った。
ナイアス公が変わり者だということくらいは、青年も知っていた。
だが、“残忍なこと”をするような人ではないことも、知っていた。
だからこそ彼は、国王として慕われているのだ。
魔道や医学を学ぶ学校も、彼が設立したものだ。
他を忘れて知を求めはしても、その研究の産物を
「処分しろ」などと簡単に言うはずがない。
この女は何かがおかしい。
「フェリシダ、逃げろ!」
青年は、自分が少女に与えた仮の名で呼びかけ、叫んだ。
過去を持たぬ彼女の行く末を想ってつけた、「幸福」を意味する名で。
同時に、辛うじて動かせた手で再び女の黒い杖を掴み、
小さく何かを唱えた。
触媒となる杖に触れてさえいれば、その所有者が誰かは関係ない。
青年の足元に、光の輪が浮かび上がる。
「何をする!」
女は慌てて杖を奪い返そうとするが、力の差がそれを許さなかった。
「彼女は渡さない……!」
青年は、長い間行使することのなかった攻撃のための魔法を、
人を癒すのではなく傷つける魔法を、
渾身の力を込めて放った。
大きな炎が青年自身の腕ごと、女を包み込む。
「隊長っ!?」
「先生……だめぇええええええっ――!!!」
目の前で起きた突然の出来事に、制服姿の男女はただ唖然とし、
少女は叫んだ。
その叫びが消えるよりも前に、少女を押さえていた制服の男女が、
消えていた。
少女の体を奇妙な色の炎が包んでいた。
青とも赤とも言えない、そして不思議と熱を感じない揺らめき。
炎はそのまま青年と女の元まで飛んでいた。
青年を守るように取り囲みながら、足元の氷を溶かし、
そして、女に燃え移る。
「化け物め……生みの親に逆らうか……!」
女はそれだけ言って、炎に舐めとられるように消えていった。
「生みの……親……?」
血だらけの足で体を支えられずに崩れ落ちながら、青年は呟いた。
「ナイアス公の実験」と言っていたはずなのに、自ら親だと称すとは。
「先生、先生……っ」
すがりつく少女の体からは、炎は消えていた。
「ごめんね、君のことがわかるかもしれなかったのに、
これじゃ手がかりが」
「そんなの、いりません!」
あの女の言うことが真実であれば、そもそも少女に過去はない。
「過去も記憶もいらない。先生といられればそれでいいの! だからっ」
少女は、これまでの手伝いや、青年に教えられて覚えた応急手当を
施そうと、診療所内を駆け回った。
効果の低い薬や、申し訳程度の道具があるだけだが、薬を飲ませ、
止血する。
「しっかりして先生……」
失血により蒼白になっていく顔を、少女は懸命に小さな手でさすった。
◇◇◇
青年は命は取りとめた。
だが、自身の足で歩くことは二度とできなくなった。
少女はそんな青年を支え、自らも医師となるべく学びながら
世話を続けた。
女は「回収を命じられた」と言ったが、
その後少女を探しに来る者はなかった。
◇◇◇
少女は、人と同じように成長していった。
二人は診療所を訪れる人たちに祝福され、夫婦となった。
だが、造られた生命であった彼女には、子を成す能力はなかった。
仕組みそのものが、なかった。
それでも二人は、幸せだった。
短い時間ではあったが、幸せに暮らしていた。
青年は足の傷が元で病にかかり、長くは、生きられなかった。
◇◇◇
ペデスタル大陸のある小さな町に。
小さな診療所はあった。
淡い青い瞳と白い髪の、穏やかな声の女性が、
町の子供達に何かを教えていた。
「小さな傷ならこれですぐに治るからね。覚えておいてね?」
「ねぇねぇ、もっと大きな怪我はどうやって治すの?」
応急手当の真似事をしながら、幼い少年が女性に訊ねた。
「治せるようになりたいの?」
「うん! おとうさんがね、よく狩りで怪我をするの……」
僕が治してあげたい、という少年に、女性は優しく微笑みかけた。
「じゃあ一緒に勉強しよっか。たくさんたくさん勉強するとね、
首都のおっきな学校に、ただで入れてもらえるのよ。そこで、
もっともっと勉強すれば、治せるようになるわ」
「ほんと? いろんな病気も治せる?」
「ええ、たくさんがんばれば、たくさん治せるようになるわ」
たとえ、共に生きることができなくても。
たとえ、自らの子を残すことができなくても。
知識は、技術は、意志は、伝えていくことができる。
残すことができる。
繋いでいくことができる。
造られた少女は、生きていた。
与えられた名の通り、幸せに。
『継がれしもの』
その少女は記憶を持たなかった。
自分がどこから来たのかも、
どこへ行こうとしていたのかもわからなかった。
そして自身の名さえも、知らなかった。
◇◇◇
「忘れちゃったのかい?」
首都近くの森で少女を見つけた青年は、優しく訊ねた。
少女は否定も肯定もせず、ただ戸惑いのまなざしを返した。
忘れたのかすらわからない。
何も。
わからなかった。
「ここは夜になると魔物が出るから、とりあえずうちへおいで」
青年は少女を自宅へ連れ帰った。
◇◇◇
青年は駆け出しの医者だった。
世間に流通している高価な薬が手に入らない庶民を治療したり、
薬では治らない傷――心に受けた傷を――癒す方法を研究していた。
記憶障害というのは、単純に頭部への物理的な衝撃で起こる場合と、
心に傷を負った際、その心を守るために自ら「忘れてしまう」
場合があると、青年は学んでいた。
少女の頭部に異常は見当たらなかった。
それならば、恐らくはどこかで酷い目に遭って、
記憶を封じてしまったのだろうと考えた。
無理に治そうとして記憶を呼び起こすと、逆に少女の命を
奪うことになりかねない。
青年は、少女を助手として雇ったことにして側に置き、様子を見ながら
治療の方法を模索することにした。
それと同時に、尋ね人などの張り紙がないか、
首都や近隣の町村で探し続けた。
少しでも手がかりはないかと、出会った森の探索も行った。
◇◇◇
「先生、あまり無理はしないでください」
ある日、疲労からか倒れてしまった青年の手をとって、少女は言った。
「私は記憶などなくても、先生のお手伝いをして、患者さんが
元気になるのを見るだけで、十分幸せを感じています」
青年が自分のために休む間も惜しんで、働き、探し、
研究を続けることに、少女は胸を痛めていた。
「たとえ君がそうでも、もしかしたら君を探して心配している人が
いるかもしれない。僕は、誰かが苦しんでいるなら、助けたいんだ」
だから、医者になった。
青年はそう言って少女に微笑みかけた。
少女を失って悲しんでいる人がいるかもしれない、そう思うと
居ても立ってもいられないのだ、と。
「体があまり丈夫じゃなくて、魔道も学んだけど戦場に出られるほどの
腕がない。だから学校で、戦闘ではなく医学を学ぶ道を選んだんだ」
学んだ知識で救えるものがあるのならば救いたい。
だから、少女を連れ帰った。
そう言われて少女は、初めて涙を流した。
◇◇◇
倒れてしまっては救えるものも救えない、と少女に言い聞かされて、
青年は少しだけ探索や研究に充てる時間を減らした。
そしていつものように、診療所にやってくる患者たちを診ていた、
ある日のこと。
「この診療所に、白髪に淡い青の瞳の少女がいるだろう」
青い魔道士向けの部隊服を纏った長身の女が、やはり青い制服を
身につけた男女を率いて、診療所のドアを開けるなり言った。
「彼女を、ご存知なのですか?」
青年は、少女の出自がわかるかもしれないという期待で腰を
浮かせたが、女の持つ冷ややかな視線に気づき、胸がざわついた。
会わせてはいけない、そう思ったが、最初の一言ですでに
彼女の存在を教えてしまっている。
「いるのだな? その娘はナイアス公の実験により生まれた
ホムンクルスだ」
女の言葉が一瞬理解できず、青年は時間が止まったかのように
立ち尽くした。
「実験中の事故で行方知れずになっていた。回収命令が出ている、
返してもらおう」
「回収って……彼女は物じゃないだろう」
「何を言っている。魔道によって作り出された“物”だ。
ナイアス様の所有物だ」
淡々と述べる女の瞳は、どこか狂信的な光が宿っていた。
「先生、患者さんです、か……?」
間が悪く、奥の部屋から少女が顔を覗かせた。
その顔を見て、女は悦に入ったような笑みをこぼした。
「いたぞ、アレだ。連れ戻せ」
それまで無言で佇んでいた制服の男女が、素早い身のこなしで
少女に迫った。
「待て、彼女をどうする気だ、彼女は記憶が……」
「記憶? そんなものあるわけないだろう」
慌てて止めようとする青年に黒く光る杖を突きつけて制し、
女は冷ややかに言った。
「彼女は生み出されたばかりなのだよ、記憶など元々ない」
実験体であることすら把握する前に、外の世界に彷徨い出たのだろう。
そうして自分が何者なのかもわからぬまま、青年と出会ったのだ。
「素材に使われている物がちと物騒なものなのでな……
回収できない場合はその場での処分を命じられている。
そんな危険なものと良く暮らしてたな」
女はまるで嘲るように青年を眺めて言った。
「かわいらしい外見に騙されて情でも移ったか?
男とは浅ましい生き物だな」
「何を……っ!」
青年は怒りで頭に血が上り、とっさに女の持つ杖を掴んでいた。
しかし女は冷静に何かを呟いただけだった。
それだけで、青年の体に強烈な痛みが走りぬけた。
「……っ!?」
「先生っ!!」
青年の下肢はその場に氷漬けにされてしまった。
床から突き出た複数の氷の刃が、腹部辺りまで体を貫いている。
青白い氷の表面を、真っ赤な液体が伝う。
「馬鹿め。私に逆らうのはナイアス公に、国に逆らうのと同じこと。
なんならおまえの体も持ち帰って実験材料にしてやろうか」
女は暗い眼差しでにやつきながら妙に赤い舌で唇を舐めた。
「隊長、それは……」
少女を押さえていた男の一人が、慌てたように声を上げる。
「黙れ。私の命令はナイアス様の命令だと何度言えばわかる」
杖を突きつけられて男は黙った。表情には怯えが見える。
冷たさと痛みに耐えながら、青年は、女が恐怖で部下を統率して
いること、ナイアス公に心酔していること、そして今ここでの行いは、
恐らく独断での暴走であることなどを察していた。
こんな女に彼女は渡せない。
ナイアス公の元には返さずに、酷いことをするに違いない、そう思った。
ナイアス公が変わり者だということくらいは、青年も知っていた。
だが、“残忍なこと”をするような人ではないことも、知っていた。
だからこそ彼は、国王として慕われているのだ。
魔道や医学を学ぶ学校も、彼が設立したものだ。
他を忘れて知を求めはしても、その研究の産物を
「処分しろ」などと簡単に言うはずがない。
この女は何かがおかしい。
「フェリシダ、逃げろ!」
青年は、自分が少女に与えた仮の名で呼びかけ、叫んだ。
過去を持たぬ彼女の行く末を想ってつけた、「幸福」を意味する名で。
同時に、辛うじて動かせた手で再び女の黒い杖を掴み、
小さく何かを唱えた。
触媒となる杖に触れてさえいれば、その所有者が誰かは関係ない。
青年の足元に、光の輪が浮かび上がる。
「何をする!」
女は慌てて杖を奪い返そうとするが、力の差がそれを許さなかった。
「彼女は渡さない……!」
青年は、長い間行使することのなかった攻撃のための魔法を、
人を癒すのではなく傷つける魔法を、
渾身の力を込めて放った。
大きな炎が青年自身の腕ごと、女を包み込む。
「隊長っ!?」
「先生……だめぇええええええっ――!!!」
目の前で起きた突然の出来事に、制服姿の男女はただ唖然とし、
少女は叫んだ。
その叫びが消えるよりも前に、少女を押さえていた制服の男女が、
消えていた。
少女の体を奇妙な色の炎が包んでいた。
青とも赤とも言えない、そして不思議と熱を感じない揺らめき。
炎はそのまま青年と女の元まで飛んでいた。
青年を守るように取り囲みながら、足元の氷を溶かし、
そして、女に燃え移る。
「化け物め……生みの親に逆らうか……!」
女はそれだけ言って、炎に舐めとられるように消えていった。
「生みの……親……?」
血だらけの足で体を支えられずに崩れ落ちながら、青年は呟いた。
「ナイアス公の実験」と言っていたはずなのに、自ら親だと称すとは。
「先生、先生……っ」
すがりつく少女の体からは、炎は消えていた。
「ごめんね、君のことがわかるかもしれなかったのに、
これじゃ手がかりが」
「そんなの、いりません!」
あの女の言うことが真実であれば、そもそも少女に過去はない。
「過去も記憶もいらない。先生といられればそれでいいの! だからっ」
少女は、これまでの手伝いや、青年に教えられて覚えた応急手当を
施そうと、診療所内を駆け回った。
効果の低い薬や、申し訳程度の道具があるだけだが、薬を飲ませ、
止血する。
「しっかりして先生……」
失血により蒼白になっていく顔を、少女は懸命に小さな手でさすった。
◇◇◇
青年は命は取りとめた。
だが、自身の足で歩くことは二度とできなくなった。
少女はそんな青年を支え、自らも医師となるべく学びながら
世話を続けた。
女は「回収を命じられた」と言ったが、
その後少女を探しに来る者はなかった。
◇◇◇
少女は、人と同じように成長していった。
二人は診療所を訪れる人たちに祝福され、夫婦となった。
だが、造られた生命であった彼女には、子を成す能力はなかった。
仕組みそのものが、なかった。
それでも二人は、幸せだった。
短い時間ではあったが、幸せに暮らしていた。
青年は足の傷が元で病にかかり、長くは、生きられなかった。
◇◇◇
ペデスタル大陸のある小さな町に。
小さな診療所はあった。
淡い青い瞳と白い髪の、穏やかな声の女性が、
町の子供達に何かを教えていた。
「小さな傷ならこれですぐに治るからね。覚えておいてね?」
「ねぇねぇ、もっと大きな怪我はどうやって治すの?」
応急手当の真似事をしながら、幼い少年が女性に訊ねた。
「治せるようになりたいの?」
「うん! おとうさんがね、よく狩りで怪我をするの……」
僕が治してあげたい、という少年に、女性は優しく微笑みかけた。
「じゃあ一緒に勉強しよっか。たくさんたくさん勉強するとね、
首都のおっきな学校に、ただで入れてもらえるのよ。そこで、
もっともっと勉強すれば、治せるようになるわ」
「ほんと? いろんな病気も治せる?」
「ええ、たくさんがんばれば、たくさん治せるようになるわ」
たとえ、共に生きることができなくても。
たとえ、自らの子を残すことができなくても。
知識は、技術は、意志は、伝えていくことができる。
残すことができる。
繋いでいくことができる。
造られた少女は、生きていた。
与えられた名の通り、幸せに。
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この記事へのコメント
1. Posted by tayune 2008年07月10日 10:38
よいお話ですが・゚(つд゛)゚・。
2. Posted by こねり〜 2008年07月10日 15:59
どうも地域名の人です。
目から汗が出るじゃないですか!ドライアイ治療ですかっっ(褒め言葉
目から汗が出るじゃないですか!ドライアイ治療ですかっっ(褒め言葉
3. Posted by Rana(蛙) 2008年07月10日 21:58
tayuneさん>
カキコあざっす!
どうしてもこう、生死に関する話になってしまって……つい死別もの書いちゃうんですよね。
こねり〜さん>
いらっさいませ! カキコどもです!
暑くなってきたのでいい汗をかいていただこうかと!(←何か違う)
カキコあざっす!
どうしてもこう、生死に関する話になってしまって……つい死別もの書いちゃうんですよね。
こねり〜さん>
いらっさいませ! カキコどもです!
暑くなってきたのでいい汗をかいていただこうかと!(←何か違う)
4. Posted by かめぽん 2008年07月11日 17:48
コミュよりこんにちわ〜
火皿とか思ってちょっとドキドキしました・・
フェリシ●のあたりに少しアンジ●を感じましたがきっと俺の気のせいです。
哀しいけど素敵な文章でした
知識を求めるエルソードらしい締めくくりです
火皿とか思ってちょっとドキドキしました・・
フェリシ●のあたりに少しアンジ●を感じましたがきっと俺の気のせいです。
哀しいけど素敵な文章でした
知識を求めるエルソードらしい締めくくりです
5. Posted by Rana(蛙) 2008年07月12日 05:28
かめぽんさん>
ご来訪&カキコありがとうございますっ
一応医者の青年は火サラ系、少女はここでは詳細書いてませんが、素材になってるモノの影響で炎系の能力が使えたことになっておりまする。
ナイアス公の過去話を書くときにでも繋がりのあるネタで書くかも……。
アンジ●というのが何かわからなかったりします、すんません……!
ご来訪&カキコありがとうございますっ
一応医者の青年は火サラ系、少女はここでは詳細書いてませんが、素材になってるモノの影響で炎系の能力が使えたことになっておりまする。
ナイアス公の過去話を書くときにでも繋がりのあるネタで書くかも……。
アンジ●というのが何かわからなかったりします、すんません……!
6. Posted by 夜月夢 2008年07月14日 19:01
帰ってきて早々に涙がっっ
命だからこそ逃げ隠れできない想いと感動があるんですねぇ!
・゚・(T□T)・゚・
命だからこそ逃げ隠れできない想いと感動があるんですねぇ!
・゚・(T□T)・゚・
7. Posted by Rana(蛙) 2008年07月15日 01:56
夜月夢さん>
命は一人にひとつしかないですからねー、FE世界では戦争で倒れても復帰はしますが、それでも人の死ってやつはあるはずなので。
死別だけは何度体験しても慣れるものでもないですし。
命は一人にひとつしかないですからねー、FE世界では戦争で倒れても復帰はしますが、それでも人の死ってやつはあるはずなので。
死別だけは何度体験しても慣れるものでもないですし。
