2008年05月12日

FEZ 読み物 『彷徨の果てに』

この間UPした詩っぽい読み物、『彷徨』の、続きのようなものを書いてみました。

最初はこちらも詩っぽくしようかと思ったんですが、ちょっと話が長いというかややこしいので、無理せず小説形式です。
へたれですね……orz

長いので折り返しの続きからどうぞ。
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『彷徨の果てに』


今日も戦地を 心失った兵が彷徨う
共にあるべき その姿求めて

数百の戦地で
数千の敵を斬り伏せ
数万の傷を負って

何度も闇に飲まれ
輝きの元 目を覚ましても

共にあったはずの その姿はもうどこにもなかった


今日も戦地を 心失った兵が彷徨う
共にあるべき その魂求めて

 ◇◇◇

「遺体だってないじゃないか! あいつはどっかで生きてる!」
デスパイア山麓での戦争が終わった後。
ひとりの戦士が仲間に詰め寄り、怒鳴り散らしていた。
「身体を構築するだけの生命力が残ってなかったんだろう」
年配の男がなだめるように戦士の両肩を数度叩いて掴む。
「クリスタルだって万能じゃないんだ。人は、いつか死ぬ」
死、という言葉に、戦士の青年は呆然とした目を向け、
崩れ落ちるようにしてその場に膝をついた。
「嘘、だ……俺たちはずっと、それこそ倒れた回数まで、一緒だったのに」

これからも、共に戦えると思っていた。
背中を任せあえる相手は、互いしかいないと信じていた。
そしてこの世界から消えるときも、必ず一緒だと。


この世界では。
戦場で傷つき倒れた際、少しずつ生命力を消費しながらも、
クリスタルの力を借りることで身体を再構成し、復帰していると
言われている。
真実がどうであるかは、研究を続ける学者たちの間でもいまだ
議論が続いていて、定かではない。
しかし、実際に戦場で命を賭けている兵たちにとって、何が真実かなど、
関係なかった。

自分が生きていること。大切な人たちが生きていること。
そして、いつかはその命は終わること。
それだけが紛れもない事実だった。

生命力が尽きたと思われる時、拠点近くに遺体のみが構成されるのが
普通だった。
魂が宿るには損傷が激しすぎる状態の、悲惨なものが多い。
宿る肉体を失った際、魂は別の世界へと導かれるという説や、
クリスタルそのものと同化してこの世に残るという説、
さらに別の新たな生命体として生まれ変わる説など、
様々な可能性が語られている。

しかし稀に、こうして、遺体が見つからないこともあった。
そんな時は、遺体という形ですら構成できぬほど生命力が
失われていたのだ、と学者たちは言う。

「嘘だ……!」

俺を置いてあいつだけが死ぬはずがない。
酷い怪我で記憶でも失って、彷徨っているのかもしれない。

赤い瞳をしたその戦士は、ゆらりと立ち上がる。
「探さなきゃ」

仲間たちの声は、もうその戦士には届いていなかった。

 ◇◇◇

今日も戦地を 心失った兵が彷徨う
共にあるべき その姿求めて

 ◇◇◇

二人は兄弟のように育った仲だった。
ネツァワル王国の領土は岩山や荒野などが多く、生命が息づきにくい。
鉱山は多く、その採掘や鉱石を使った武具制作などには
適しているのだが、一般の民が命を繋ぐためには、農作物や家畜の
育ちにくさが大きな壁となっている。
二人の両親も、僅かな畑と家畜を持つ農民だったが、天候の悪化が
続いた年の不作で領主への納税ができなくなり、子を残して
自害してしまっていた。

ビクトリオン大陸の村々には、そういった子供だけで集まって
暮らす家がかなりの数見受けられた。
助け合わねば生きていけなかった。
彼らは親の畑を領主に「返還」という名目で奪われていたため、
狩りの技術を磨き、始めは普通の獣を、そして腕が上がれば魔物を、
狩ることで暮らしていた。
力のない者は、同じ村で人手を求めている家の畑仕事などを
手伝っていた。

二人はどちらも、斧や剣などの武器の扱いが得意だった。
「大きくなったら、傭兵にでもなってみるか」
その方がきっと、稼げる。
二人は幼い頃から、その『家』の中でも能力が高く、
稼ぎ頭として頼られていた。
もっと早く、もっとたくさん稼いで、弟分たちを楽にさせたい。
始めはそんな夢を抱いて、日々腕を磨いていた。


現在の国王ヒュンケルは、放逐され獣人に姿を変えられたことで、
暴君であった過去を悔い、罪を贖うために過去を隠して、
弱者のために立ち上がった。
ヒュンケルが民衆の支持を集め、再び王座に着いたそのとき、
二人の少年も例外ではなくその新しい王に憧れ、
彼の兵となることを望んだ。
貧しい国に引きこもるのではなく、中央大陸に打って出ることで、
少しでも国を豊かにできるのではないか。
そうすれば、自分たちのような子供は、きっと減る。
ひとりひとりは無力だとしても、少しでも国のために働きたかった。

魔物狩りをしながら磨いたその腕を、今度は戦場で。
二人は常に行動を共にした。

同じ前線に立ち、共に攻め込み、助け合い。
どちらかが死に瀕した時は、必ずもう一方も間を置かずに倒れるような、
そんな戦い方をしていた。
「おまえらの息の合いっぷりは、他の奴じゃ代われねぇな」
部隊の仲間達にそう言われるほど、二人の連携は見事だった。
「ミスするとこまで一緒じゃ、代わりようがないよね」
そう茶化されるほど、二人の行動は同調していた。

燃えるような赤い髪の戦士は、主に巨大な戦斧を武器とし、
敵陣へ飛び込んで撹乱する動きを得意としていた。
相棒だった白い髪の戦士は、主に盾を持ち、赤毛の戦士と共に
敵陣へ飛び込み、取り残された敵の足止めをしたり、
彼を庇って攻撃を受けるなどの援護をしていた。
本当に、倒れるときは常に同時で。
拠点で目覚めるのも、いつも一緒で。
「まーたやっちまったなぁ」
「あんたが前に出すぎなんだよ」
笑顔でそう言い合って、再び前線へ走っていた。

それなのに――。

 ◇◇◇

今日も戦地を 心失った兵が彷徨う
共にあるべき その姿求めて

 ◇◇◇

白い髪に血の色の瞳の戦士が、まるで死を求めるかのように
前線をうろついている、という噂が広まっていた。
他の誰とも息を合わせようとせず、ただひとり、
何かにとり憑かれたかのように敵陣に飛び込んでいくという。

元々は短かったその髪は伸び、長い前髪から覗く瞳は
どこか狂った光を宿し、
誰かの名を時折呟いていて、とても近寄り難い。
大きな両刃の斧に得物を変えていて、ひたすらに斬りこんでいく。
その鬼気迫る様相のためなのか、それとも死を覚悟した上での
突撃だからなのか、敵はその姿に恐れをなして逃げてしまう。
無茶としか言いようのない動きでも、それほど倒れることもなく
敵を蹴散らしていて、戦場から追放されることもなく、
ひたすらその行為を続けていた。


俺はここにいる。
ここで戦ってる。
だから、早くあんたも戻って来い。
この前線が、俺とあんたの居場所のはずだ。

「どうして、居ないんだ」

本当に死んでしまったのか。
生命力が削れたというなら、なぜ今俺は生きてるんだ。
俺も死ぬはずだ。
同じだけ倒れた俺も。

「同じどころじゃない……」

あの後、何度も倒れてる。
なのに、なんで俺はひとりで目覚めるんだ。
あんたが消えるなら、俺も消えるはずだ。
あんたがいないなら。

「なんで俺は死ねないんだ」

 ◇◇◇

今日も戦地を 心失った兵が彷徨う
共にあるべき その魂求めて

 ◇◇◇

デスパイア山麓での戦闘が終わったとき。
その白髪の戦士はいつものように、休戦状態のその土地を
引き続きうろついていた。
赤毛の戦士が姿を消したのはこの山麓だ。
この土地が戦場になったとき、白髪の戦士はかならず参戦し、
戦後になると何か少しでも手がかりはないかと、彷徨っていたのだ。

遅い時間に始まったその戦争が終わったのは日没後で。
彷徨ううちに、魔物の中に死霊の類が混じり始めた。
ほとんど骨になってしまったその身に、干からびた肉や皮が
残っている場合もあれば、本当に骨だけの姿のものなど様々だが、
大抵が生前身につけていた武具を所持しており、
「生きた人間」を見ると襲い掛かってくる。
魔物に倒され人知れず朽ちてしまった者や、戦争で倒れた際に
何らかの不運が重なり、復帰できなかった者がそうなると言われている。

「復帰……できない……?」
視界に入ったその死霊を見て、戦士の頭の中で何かが繋がった。
それまでは冷静さを欠いていたためか、
まったく思ってもみなかった可能性。
いや、むしろ。
そうであっては欲しくないという想いから、
考えたくなかったのかもしれない。
武器を構えるのも忘れて、亡者の群に近づいていく。
戦斧を持つものだけを目で追う。

「いるのか……?」
ここに。この亡者たちの中に。
生きることも死ぬこともできずに。

《ここに、いる》

誰かに呼ばれた気がして振り返る。
姿は見えない。
「どこにっ!?」
泣きそうな声で叫ぶ。
空耳かもしれないと思いながらも、
そうであって欲しくないと願いながらも、
もしも、本当にいるのなら。

《苦しい》

《助けてくれ》

声の聞こえる方角へと走り出す。

《助けてくれ――》

苦しげな声が近づく。
と、その瞬間、一体の死霊が斬りかかってきた。
巨大な、戦斧で。

「あんたなのか……っ!?」
間一髪でそれを避け、目を見張る。
日が浅いからなのだろうか。
眼孔は落ち窪み、頬もこけ、腕もほとんど筋と皮でしかなかったが、
比較的肉体が形を保ちミイラのようになっている。
その手に持つ斧と、身につけている鎧は。

「あんた、なのか」
愕然とした。
こんな姿でずっと、苦しみ続けていたのか。
たったひとりで。
俺に助けを求めて。
その声は届かなくて。

《助けてくれ》

《解放を、おまえの手で》

自らの意思では動けないのか、その死霊は次々と
攻撃を繰り出してきた。
助けを求めながらもその手が緩まることはない。

「もう、だめなのか! 一緒には戦えないのか!」
反撃することができずに、涙を浮かべながら戦士は叫ぶ。
諦めが悪いと言われても、まだ、信じたくなかった。
「あんたとじゃなきゃ、あんな風に戦えないんだ!」
ひとりじゃ、戦えない。
他の誰とも、戦えない。

《解放してくれ》

《ひとりには、しないから――》

それは決心させるための嘘だと、すぐにわかった。
そんなことは望んでも無理なのだと、わかっていたから。
死霊となった者が生還したという話など、聞いたことがないから。

「……苦しいのは、俺じゃなく、あんたなんだよな」
戦士は自らの得物をしっかりと握りなおした。
「ごめんな。俺も、すぐに逝くから――!」
立ち上がり様、下から掬い上げるように斧を振るう。
死霊の腕が千切れ飛ぶ。
一度飛びのいて、空間を裂くように衝撃を送り込む。
死霊の冑が割れて落ちる。
飛び込んで斧を叩きつける。
死霊の身体が斜めに裂ける。

空ろな眼孔に、夜空のように深く黒い瞳が見えた気がした。
「ごめん、な……」
ずっと気づかなくて。
ずっとひとりにして。
ここで終わらせてしまって。
涙で見えぬその赤い瞳を瞼の奥に隠し、戦士は
最後の一撃を叩き込んだ。
骨が崩れるような音がした。

《おまえなら、大丈夫だから》

《おまえは――》

消え入るような声が聞こえた。
すがりたくて目を開けた。
だが目の前には、朽ちた骨と汚れた鎧が散らばっているだけだった。
「大丈夫なんかじゃ、ない」
跪いて、地に手をつき、そっと骨に手を伸ばす。
触れたとたんにそれは崩れ、風に流れた。
「これで本当にひとりだ」
遺品となってしまった装備をひとつずつ手元に引き寄せる。
もう使い物にはならないが、遺体の代わりに埋葬だけでもしたかった。
それらの鎧の下に、小さな瓶のようなものがあった。
細い鎖を通して首から下げられるようになっている。
「お守り代わりに持ってたやつか……」
戦士はそれを、生前の相棒に倣って、首から下げた。

 ◇◇◇

今日も戦地を 心失った兵が彷徨う
先に逝った魂と 共にあるべく死に急いで

 ◇◇◇

前線で無心に暴れる白髪の戦士の噂は絶えなかった。
以前にも増して、まるで殺してくれと言わんばかりに無防備に、
ただ突撃を繰り返していた。
それも、不利だといわれる戦場にのみ現れて、不利だと叫ばれる前線で。

そんな戦士に、部隊の仲間が忠告をすることもあったが、
まったく聞き入れようとはしなかった。


ある日、その戦場はこれまでにないほど追いつめられ、
敗戦が確実という状況にあった。
拠点である城の近くまで攻め込まれ、クリスタルの採掘すら
ままならない。
途中で戦闘を放棄して逃げ出す者まで出る始末だった。

人数でまで不利になった前線は、すでに潰走状態だった。
そんな場所ででも、白髪の戦士は引かなかった。
ひとり残され、氷結の魔法で足止めをされて。
身を焼く炎に包まれて、斧が振り下ろされた瞬間。

いつもなら苦痛とともに訪れるはずの闇の代わりに、何かが弾ける音と、
身体の奥底から沸きあがる、膨大な力を感じた。
燃え尽きて肉体が消えていくような感覚の後、宙に広がったそれが
巨大な身体を構築していく奇妙な幻覚が戦士を襲う。

「これは……ドラゴン……」
それは幻覚ではなかった。
自らの手で消滅させた友の、形見が弾けたのだ。
竜の魂が封じられたというその小瓶が。

《戦争はもう負けだ。でも、仲間を少しでも助けろ》

消えたはずの友の声がした。

《おまえはひとりじゃない。仲間がたくさんいる、それに》

戸惑う戦士の心に、その声は語りかけ続ける。

《大事な弟たちが待ってるだろ》

二人で戦場に立った理由。
同じ境遇の子供たちを養いたい。
同じ境遇の子供たちを、もう増やしたくない。
相棒を失った瞬間、忘れてしまっていた、大切なこと。

《俺は早々にリタイアしちまってすまない。でも》

《おまえはひとりじゃない。俺の分まで、がんばってくれないか》

力を貸せるのはこれが最後になるけれど。
理解できたのはその言葉までで、戦士はすぐに意識を失った。
竜の魂が強すぎて、意識を保てなかったのだ。

再び気づいたときには、戦争が終わるところだった。
無意識なうちにでも、味方の援護や建築物の破壊はしていたらしい。
恐らく、声の主が――消えたはずが残っていた相棒の魂が、
代わりに動いてくれていたのだろう。

戦争が終わったことで、竜の魂も解放され、
戦士は元の姿に戻りつつあった。

《おまえはひとりじゃないから。それだけ言いたかったんだ》

朽ちた体が砕かれたそのとき、伝え切れなかった言葉を
伝えるためだけに。
消えてしまいそうになる意識を繋ぎとめて、自らが身につけていた小瓶に
必死でしがみついたのだという。
そして竜の魂が解放されるそのときに、力の波に乗って、竜の魂とともに
戦士の身体に宿ったのだと。

《竜ももう逝っちまったから俺も残れない。これが最後だ》

体内から聞こえていた声が、頭上に抜けていく。

《おまえは、俺の分まで生きてくれ》

見えない声を目で追うようにして、戦士は空を仰いだ。

「わかった」
一言それだけつぶやいて、流れ落ちる涙をそのままに、
戦士は空を見つめ続けていた。

 ◇◇◇

今日も戦地を 心救われし兵が駆ける
共にあった魂の 安らかな眠り願って――


Rana at 00:42│Comments(0)TrackBack(0)この記事をクリップ!FEZ | 読み物

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