2008年04月10日
FEZキャラ過去話 その2
FEZのキャラの過去のお話その2でございます。
その1の続きにあたり、RoD正式サービス初期〜中期の
ゲブにまだ人が少なかった頃のイメージです。
その1の7〜8年後くらいかなーと適当に妄想。
文章中にて行われている決闘(特殊ルールなタイマン)は、
実は本当にやったものだったりします。
訓練場が実装されたのはかなり後なので、
本当は時期がいろいろとずれるのですが……w
そこで対決後に行われた萌え談義がものすごくふくらんで。
今では合同企画までしていただくような状態に!
男装の娘という設定でゲブにキャラを作って本当によかった、と
しみじみ思います。
SS自体は折り返し部分に。
※今後もフレのキャラを何人か登場させたりしますが、名前はすべて
英数字や漢字ひらがななども「カタカナ」に変えています。
そのため、実際のゲーム内の方とは別人の可能性があります。
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その1の続きにあたり、RoD正式サービス初期〜中期の
ゲブにまだ人が少なかった頃のイメージです。
その1の7〜8年後くらいかなーと適当に妄想。
文章中にて行われている決闘(特殊ルールなタイマン)は、
実は本当にやったものだったりします。
訓練場が実装されたのはかなり後なので、
本当は時期がいろいろとずれるのですが……w
そこで対決後に行われた萌え談義がものすごくふくらんで。
今では合同企画までしていただくような状態に!
男装の娘という設定でゲブにキャラを作って本当によかった、と
しみじみ思います。
SS自体は折り返し部分に。
※今後もフレのキャラを何人か登場させたりしますが、名前はすべて
英数字や漢字ひらがななども「カタカナ」に変えています。
そのため、実際のゲーム内の方とは別人の可能性があります。
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『秘密』
鈍い色の石作りの建物が続く街角。
何人かの少年少女たちが石段に腰掛けて、
疲れた手足を伸ばしたりしていた。
「はぁ〜あ、戦争、なかなか終わんないね」
青い鎧を身につけた戦士風の少年が、ため息をついてうなだれる。
最前線に出て体を張る戦士たちは、一戦一戦が緊張続きで
疲労しやすい。
ここメルファリアの地では、戦場に特殊な力が働いているのか、
普段では死んでしまうような傷を追っても、回復した後
自軍拠点に復帰することが可能だ。
すべてが『クリスタル』という物質によって構成されると
考えられており、倒れた際相手にクリスタルを奪われていることから、
「生命力の源であるクリスタルを消費することで回復、移動している」
と言われている。
戦士たちはその立ち位置のせいか、倒れては戻りを
繰り返すことになりやすい。
生命力自体の消耗が、激しいのだろう。
「ヒロさん顔色悪いよ、早く帰って休んだほうがいいんじゃないか」
戦士の少年にそう声をかけたのは、
斥候や支援などを担う職の少年だった。
自らの武器である短剣の手入れをしながら、前髪に隠れたその瞳は
しっかりと友人の様子を観察していた。
「うん……でもみんなと居るほうが癒されるんだよ」
ヒロと呼ばれた少年は、短剣の少年に微笑んで見せた。
確かに疲労の影は濃いが、一仕事終えた充実感と、
仲間との安らぎのひと時に、心から満足しているという顔だった。
「ヒロ殿はがんばりすぎなんだ。建築や召喚のお仕事もしてるのに、
戦士が少ないからって前線でがんばりすぎだ」
少年の後ろに立ち、鮮やかな金色の髪が乱れるほどくしゃくしゃと撫でて
そうつぶやくのは、黒いローブを身にまとった魔道士の少女。
まだ年は幼いのか、背はとても低く華奢だ。
ローブの袖も少し余っているくらいだった。
そんな子供まで戦場に借り出されるほど、今の帝国は
戦力が枯渇していた。
この街角に集う子供達は、ほとんどが戦争孤児などで、
田舎町やスラム街出身だった。
両親は大抵、戦争に駆り出されて生命力が尽きたか、貧困故に
逃げ出してしまったか、圧制に反抗し、反逆者として捕らえられ、
それきり戻らないか。
何らかの形で、子供だけを残して姿を消している。
そんな状況でも生きてこれたのは、スラム街の子供たちに
戦い方を教えてくれた一人の男のおかげだったのかもしれない。
その男は今、帝国の頂点にいる。
「あの人、最近こっちに来てないみたいだね。忙しいのかなぁ」
白いローブの少年が、遠くに霞む城の方を見やりながらため息をつく。
皇帝になった男は、そうなった後も時折こっそりと抜け出してきて、
子供達の様子を伺っていたのだ。
それが、ここ数日は姿を見た者がない。
「ライル様が即位したんだから、きっとこの国はよくなる」
短剣の少年は器用にその得物を回し、鞘に収めて言った。
少年が武器に短剣を選んだのも、その男への憧れもあったのだろう。
「グリ殿は本当にライル様が好きなのだな!」
先ほどの黒ローブの少女が楽しそうに笑って言った。
グリと呼ばれた少年は少し顔を赤らめて立ち上がる。
「き、嫌いなやつなんかいないだろっ。ニカだって好きなくせに」
孤児達をまとめてくれていた男が、なぜ急に皇帝として
即位することになったのかは、子供達は聞かされていない。
でも、彼自身が貧困の苦しさを知っているのだから、
今後は絶対によくなる。
そう信じて、そして彼のために、戦争にも喜んで身を投じているのだ。
「そろそろ日も暮れてきたし、買い物して帰るかな」
戦士の少年が立ち上がる。
それにつられるようにして、白ローブの少年も立ち上がった。
「あ、僕もそろそろ帰らないと」
「蛙殿のおうちは遠いからな。気をつけるのだよ!」
ニカと呼ばれた少女は魔道士の少年に、挨拶代わりに抱きついた。
「うん。ニカちゃんも気をつけてね」
そうして、四人は手を振りながら、それぞれの家に向かって歩き出す。
戦士の少年と、白ローブの少年は途中まで肩を並べて歩いていた。
「今更思ったんだけどさ、なんでフロッシュはニカから
蛙殿って呼ばれるんだ?」
本人に聞けばよかったかな、と続けて、戦士の少年は
魔道士の少年の顔を見た。
「ああ、カエルが主人公の絵本に、そういう名前の子が出てくるんだ。
母さんが好きだったらしくて……」
母さん、という言葉を紡ぐ際、少しだけ視線が泳ぐ。
本人には、母親の記憶などないからだ。
そして本当にこの名前をくれたのは、たった一人の家族である、
兄だったから。
「そう、か」
何かを感じ取ったのか、戦士の少年はそれ以上聞かなかった。
戦士の少年と別れてから、白ローブの少年は足早に町を離れていく。
少年の家は、人里から少し離れた場所にあった。
「ただいま帰りました」
木でできているわりに安定感のあるその家に一歩踏み込むと、
温かな光を湛えたランプが揺れ、少年を迎え入れる。
「遅かったな、何かあったのか」
養父でもあり魔法の師でもある魔道士が、少年の背後を確認するように
見渡してから扉を閉めた。
「いえ、大丈夫です。友だちと話していたら遅くなっちゃって」
少年は笑おうとしたが、上手く笑えずに顔を強張らせる。
ずっと、友人達に嘘をついている。
年齢を重ねるごとにいろいろなことを知って、
そのたびに、自分の抱える秘密が少しずつ重さを増していた。
幼い頃に引き取ってからというもの、ずっとこの少年を見てきた
魔道士は、弟子の変化を見逃さなかった。
「……もう無理に隠さなくてもいいのではないか。自分の身くらいなら
十分に守れるようにもなっただろう」
この子の兄が出て行くときに交わされたやりとりを、
昨日のことのように思い浮かべながら、魔道士は目を細めた。
「私は、まだまだ未熟です。それに兄さんとの約束だから、
帰ってくるまでは」
少年は、今度こそは本当に微笑んでそう答えた。
魔道士はまだ何か言いたげに口を開きかけたが、
少年が奥の調理場へ行ってしまったため、言葉にするのをやめた。
数日後のこと。
少年は、兄の友人だった若者と同じ戦場になり、初めて前線へ出た。
それまでは、戦場でも後方支援にしか参加していなかった。
クリスタルを採集する役目や、その力を使っての建築物の生成、
召喚術の行使など、直接の戦闘以外にも仕事はたくさんある。
少年は兄の言いつけのひとつとして、直接戦闘を避け、
それらの仕事のみ担うということを守り続けていた。
だが、このときの戦場には氷結の魔法を行使できる者が少なく、
前線に赴く戦士たちが非常に苦戦していた。
兄の友人であり、自分のこともわかっていながら守ってくれている
その若者が苦しむ姿を見て、少年は居ても立ってもいられなくなった。
「おまえ、カルヴァンとの約束いいのかよ? ここやばいぜ」
若者は前線で少年の姿を見つけ、驚いて声をかけた。
「ブラッドさんを助けるためなら、兄さんもきっと許してくれます。
私は後方から援護するだけですし」
氷の魔法を扱う魔道士は、敵兵の足止めや行動抑制を得意としている。
それ自体の殺傷能力は低いものの、味方が攻撃に出る機会を生み出す
貴重な魔法を扱えるのだ。
自らを中心に周囲に冷気の波動を放つ護身の魔法もある。
「それに、たまには戦わないと、本当に自分で自分を守れるように
なっているのか、わかりませんから」
その戦場では、結局帝国軍は敗北してしまい、
領土を敵国に明け渡すことになった。
生命力の消費で拠点に復帰できるようになる以外にも、
戦場には特殊な力が働いている。何らかの基準を元に、
一定の時間以内に勝敗が決まるようになっているのだ。
倒された兵の数であったり、『オベリスク』と呼ばれる特殊な建造物の
影響によるものであったり、さまざまな要素が絡んでいる。
何か大きな力が人間たちに戦争をさせているのではないか。
歴史を研究する者達は口々にそう語っていた。
敗北はしても、体に傷ひとつつかずに終わることもある。
この日は運がよかったのか悪かったのか、少年は少し矢や魔法を
受けはしたものの、酷い怪我は負わずに済んでいた。
「すみません、結局守ってもらってばかりで……」
「気にすんな。俺だって何度も助けられたぜ」
申し訳なさそうにうなだれる少年の肩を叩き、
若者は励ますように言った。
「でも、やっぱり私はまだまだです。まだ、だめだ」
何がだめなのか、それを察して若者は視線を天に向けた。
「あいつがさっさと戻ってくればいいのにな」
約束を守っていればすぐに帰ると告げて旅立った兄。
そのときの少年には理解できなかったのだが、
兄は今隣国で傭兵をしている。
帝国から独立した小国が集まってできた、連合国だ。
小国の集まりであるせいか、その国の内情は安定していないと聞く。
安定するまでは、おそらく戻ってこないだろう。
「連絡は、おまえのとこにもないのか?」
若者はふと訊ねる。
「はい。師匠は、スパイ容疑を恐れてのことだろうと言ってます」
帝国と反乱軍の間で連絡を取り合うなど、見つかろうものなら
双方ただでは済まない。
「そう、だよな……せめて報告だけでもできればなぁ」
元気にやっている、ただそれだけでも伝えたかったし、
少年の兄の消息も知りたかった。
しかし、無理に連絡を取ったことで処刑でもされては、元も子もない。
「まあ、今日は帰るか。ルドゥーさんに用があるから送ってく」
「あ、そういえば師匠も何かお土産があるって言ってましたよ」
少年の師である魔道士は、よく魔物狩りにもでかけていて、
その戦利品を持ち帰ることが多い。
大方、戦士向けの武具でも入手したのだろう。
そんな二人の会話の端を耳にして、一人の青年が振り返る。
「……師匠?」
青年が小さくつぶやいた時には、二人はもうクリスタルの力を利用した
帰還手段で戦場を去ろうとしていた。
濃紺のローブを身にまとうその青年は、
少年の師と同じ雷撃の使い手だった。
少年が師だと言った名の魔道士は、雷を操る魔道士たちの大会で
優勝したことがある。
その際、何人かの若手魔道士が弟子入りを志願したが、
すべて断っていたのを、青年も知っていた。
断った理由はすでに弟子がいたからなのか。
青年もすぐさま二人を追って、首都に帰還した。
翌日。
その日少年は戦争には出ずに、本を読み漁り勉強に励んでいた。
今後も戦争に出るつもりなら、歩兵としての実戦経験も積むべきだが、
まだまだ基礎知識も十分ではない。
昨日の戦場での立ち回りでそれを痛感していたのだ。
昼過ぎまで根を詰めてしまい、疲れが出たため外の空気を吸いに出る。
「やあ、こんにちは少年」
少し道を歩いたところで、声をかける者があった。
「こん……にちは。あの……」
声のしたほうに顔を向け、誰なのか問う言葉を続けようとした少年に、
濃紺のローブの青年が近づいてきた。
「雷帝のお弟子さんというのは、君かい?」
紫色のシルクハットの下、眼鏡の奥の瞳がにっこりと笑いかける。
長めの髪で隠されていて、少年からはあまりよく見えなかったが。
「雷帝というのがルドゥー師匠のことでしたら、そう、ですけど……。
あなたは名乗らないんですか?」
少し怒ったような顔で少年は青年を見上げた。
見下ろされている上に、笑われたような気がして、腹が立ったのだ。
「ああ、すみません。あまりにも可愛い子がお弟子さんだと知ってつい」
青年は悪戯っぽくそういうと、帽子を取って胸にあて、
恭しくお辞儀した。
「ディルアークと申します。今日は、雷帝殿のお弟子さんに……」
そこまで言って上げた顔には、好奇心に満ちた笑顔が浮かんでいた。
「勝負を、申し込みに来ました」
「勝……負……?」
少年は、初めは言われたことを理解できなかった。
「はい。大会で優勝され、すべての弟子入りを断った彼の
唯一のお弟子さん。そんな君と勝負をしてみたいのです、一対一で」
自分は極めて真面目だ、と言わんばかりの顔をして、
青年は少年を見つめた。
「そんな、興味本位の私闘は受けられません。まだ修行中ですし、
師匠にだって叱られてしまいます」
少年は慌てて断った。大会を知っているということは、目の前の青年も
出場していたのだろう。ということは、雷撃使いであり、
さらに出場する程度には実力も自信もあるはずだ。
正直、勝てる気がしない。
それに、そういった類の戦闘はしないようにと、師に言われている。
「負けるのが怖いんですか?」
ふと、青年の瞳に意地悪そうな光が宿る。
「そうですよね、負けたら師匠殿の面目もつぶれてしまいますもんね。
それに、こんなに可愛い子に戦闘はまだ無理ですよね」
そういって微笑むと、青年は少年の頭を軽く撫でた。
「なっ……!?」
馬鹿にされている。
そう感じた途端、頭に血が上り、少年は青年の手を振り払っていた。
「失礼な、あなたみたいな人になんか負けません!」
そんな少年の様子に、青年は嬉しそうな顔で首をかしげる。
「では、受けていただけるんですね?」
「え」
「負けない、ということは、僕と戦ってくれるということでしょう?
明日、日が半分傾いた頃に、訓練場で。待ってますよ」
あっけにとられる少年を残して、青年はくるりと背を向けて
立ち去ろうとした。
そして、途中で立ち止まると、振り返って言った。
「そうそう、すっぽかしたりはしませんよね?
それこそ師匠殿の恥になる」
念を押されてしまい、断りようがなくなって少年は口をつぐむ。
去っていく青年の後姿を、見送ることしかできなかった。
その夜のこと。
「どうしよう……今の状態で勝てるわけない……」
いくらかっとなったからとは言え、あんな大口を叩いてしまうなんて。
少年はベッドの中で、あの時の自分を恨んだ。
夕飯もろくに喉を通らなかった。
師にそれを見咎められたが、相談するわけにもいかない。
私闘を受けたなどど知ったら、おそらく自分の面目など気にせず
止めるだろう。
しかし、師の名を汚すことなどしたくなかった。
「負けるだけなら、自分が未熟者だと馬鹿にされるだけで済む」
逃げたとなればそのほうが酷い言われようをするだろう。
そう考えて、とにかく睡眠だけは取ろうと、
少年は頭まで布団に潜り込んだ。
翌日。
指定された場所へ向かうと、すでに青年は到着しており、
日向でのんびりと座っていた。
訓練場、と呼ばれるその地域は、新人兵士に戦術を学ばせたり、
各自が修行のために使用したりできるようにと、国が用意した土地だ。
首都などと同様に魔物を退ける結界が張られており、
さらに、戦闘中に傷を負った際、生命力を削ってしまう前に
回復、移動するよう、クリスタルの力を利用した仕組みが施されている。
従って、ここでの戦闘はどんなに激しくとも命に関わることはなかった。
「よかった、来てくれたんだね……そうだ、まだ名前を
聞いていなかった」
青年は、握手を求めるかのように手を差し出した。
「フロッシュ、です」
少年は名乗って少しためらった後、青年の手を握った。
その途端、強い力で引き寄せられる。
「……っ?! なんですか突然っ」
少年は近づいた青年の顔に驚き、慌てて手を振りほどいて飛びのいた。
「ただの挨拶ですよ、挨拶。フロッシュ君か……カエルの名前だね」
青年も、絵本を知っているようだった。
やけに陽気な声で少年の名を復唱する。
そして、何か思いついたように顔を上げ、話を切り出した。
「今日は、特別なルールで遊んでみないかい?」
「遊ぶって……」
また馬鹿にされた気がして、少年の顔が上気する。
しかし、青年はお構いなしに続けて言った。
「この間、素敵な騎士様ともそれで戦ってみたんだ。楽しかったよ」
どんなルールかといえば。
少年にとっては、とても受けられないような内容だった。
だが、ここまで来ておいて断るわけにはいかない。
「なんで、そんなルールを」
焦りと迷いで鼓動が早くなっているのがわかる。
少年はなるべくそれが声に出ないように気をつけながら問い返した。
「ただ一戦するだけじゃ、実力もわかりにくいだろう。
装備を外していけばどちらがどれだけ負けているのか、
わかりやすいじゃないか」
それは取ってつけたような理由だった。
要は、彼は相手を脱がせたいだけなのだ。
このルールを聞いて少年はある噂を思い出していた。
美しい青年や、かわいらしい少年に決闘を挑んでは、
負かした相手の装備を奪うなどして楽しんでいる魔道士がいると。
「そのルールじゃなきゃダメなんですか?」
「君が勝ち続ければ済むことじゃないか、気にすることないだろう?」
疑問に疑問で答える青年。断れば変に疑われるだろう。
そのルールを断れないのであれば。
負けるわけにはいかない、少年の中で焦りがさらに膨らむ。
「じゃ、始めようか」
青年は、もう基礎詠唱を始めていた。
魔道士たちが強力な魔法を扱うのに必要な予備動作だ。
効果が続いていることを示す魔法陣が足元に浮かび上がる。
少年も慌てて詠唱を行った。
少年の足元が光り出すと同時に、青年は距離をとる。
雷撃の魔法は射程と威力が特徴だ。
少年も初歩的な雷撃魔法は身につけているが、修練が半端なため、
青年よりも一歩踏み込まないとそれが届かない。
無理に雷撃を使うより、得意の足止めを先に試みることにした。
回復薬なしでの勝負になるため、一撃をくらうことが
負けにつながりやすい。
魔法を放ったあとの隙を狙われまいと、互いに様子を見て
じりじりと動くことが多くなる。
それが、余計に少年を焦らせた。
早く終わらせたいという気持ちがつい、先に行動に出るよう
自らを仕向けてしまう。
「何をそんなに焦ってるんだい? 当たらないよ」
少年の放つ氷の塊を軽々と避けて、お返しにとばかりに
小さな雷を落とす。
「……くっ」
体に痺れが走ると同時に、目の前が暗転した。ひとつ、負けた。
先ほどの場所に戻ってみると、青年はクリスタルの横に
座り込んで回復していた。
「約束どおり、何かひとつ外してもらおうかな」
そうにこやかに言われて、少年は半ば投げやりに
フードの部分を外して投げた。
「まあ、そこが順当だね」
青年は肩をすくめると、フードを拾って土を払い、
クリスタルの上に置いた。
そしてすぐさま詠唱を始める。
装備の少なさの分、実は不利になっている。
そんなことも忘れて、少年もまた戦闘態勢に入った。
今度は足止めメインでなく、氷結の次に得意な
炎の魔法を多めに織り交ぜる。
着弾後少しの間炎が残り、相手に傷を追わせ続けることができるのだ。
その魔法で少しでも体力を奪えば有利になる。
少年は、今度は無理に間合いを縮めずに、
青年の雷撃を待ってから踏み出し、魔法を放っていた。
「さっきより動きがいいね」
「しゃべってる暇あるんですか?」
氷結、炎弾、そして雷撃。うまくその魔法すべてが当たり、
うずくまった青年の姿が消える。ひとつ、勝った。
何戦しただろうか。
青年は帽子と手袋をしていなかった。
対する少年は。
「さて、あとは上下のどっちかしかないね」
最初にフードを取った。手袋と靴ももう外していた。
普通なら、ここで上着を取る者が多いだろう。
青年もそれを予想していた。
だが、少年が脱いだのは下衣のほうだった。
「珍しいな、そっちか。まあ、あまり見た目変わらないもんね」
男性用の下着は、魔道士の下衣とあまり形状の違わないものが多い。
青年はすでに勝利を確信しているのか、笑顔が絶えない。
少年のほうはといえば、もう言い返す余裕もなかった。
もう負けられない。
その気持ちが、少年の動きを余計に鈍らせていた。
そんな少年をもて遊ぶかのように、青年は、
相手を吹き飛ばす威力のある強力な雷撃をメインに戦い、
近づけたり、遠ざけたりしていた。
焦った少年は、青年を足止めしようと踏み込んで氷塊を放った。
「気が合うね」
すれ違うように飛んだ氷が少年の足を地面に縛り付ける。
「……!」
青年のほうも、ある程度氷結の魔法が使えるのだ。
「ちゃんと戻ってきてね?」
優しく微笑んで、青年は最後の一撃を放った。
暗転した視界の中、少年は逃げてしまおうかと考えていた。
でも、それでは戦わずに逃げたのと同じように嘲笑されるだろう。
知られたくはない。
でも、一人に知られるだけなら、内緒にしてもらえるのではないか?
しかし、あの男は信用できるのか?
そんな思考がぐるぐると少年を取り巻いていた。
このまま闇が続けばいいのに。
そんな願いも空しく、開いたまぶたの向こうに
眩しい夕日が浮かんでいた。
重い足取りで青年の元へ戻った少年は、その目を見れなかった。
恐らくまた馬鹿にするような笑みを浮かべているに違いない。
表面は優しそうな顔だけど、あれは絶対子供だと思って馬鹿にしている。
そう思えば思うほど、これから待ち受けている事態に足が竦んだ。
「そんなに恥ずかしいのかい? たいしたことないだろう、
装備外すくらい」
青年は特に気にする様子もなく、軽い気持ちでそう言った。
まだ、少年の態度がおかしいことに気づいていなかった。
「約束は、守ります……でも……」
上着を止めている金具に指を掛けながら、少年の瞳に涙が浮かんだ。
「誰にも、言わない、で」
最初は、青年は涙に驚いていてよく見えなかった。
なぜ泣くのか、可愛い子だなぁなどと思った矢先、
予想外の姿が目に入ってきた。
開いた上衣の隙間から見える下着のさらに下に、
幾重かに巻かれた細長い布があった。
まだ、元々大きくもないのだろうが、男性向けのローブを
着られるようにと、きつく締められているのがわかる。
「え、え、ちょっと待って、君……」
完全に脱いでしまう前に、青年は少年の、いや少女の手を止めて、
上衣の前を閉めさせた。
「女の……子」
「お願い、誰にも言わないで」
もう涙は止まらなかった。
少女は自分がなぜ泣いているのかすらわからないほど、
焦りと混乱と、懇願したい気持ちでいっぱいだった。
服がはだけてしまうのも気づかずにしがみついてくる少女に、
青年は慌てた。
少年だと思ったから、ちょっと悪戯してやろうと思っただけだった。
あの雷帝の唯一の弟子と知って、純粋な好奇心を抱いたのが
初めではあったが、その弟子のあまりに頼りない姿と、
つっかかってくる様が可愛くて、ちょっと悪戯心が
くすぐられてしまったのだ。
まさか、女の子だったなんて。
酷いことをしてしまったという後悔が青年に押し寄せる。
女性に対しては今まで紳士的に振舞ってきた青年だった。
相手もその気であればそういう関係を持ったりもした。
だが、目の前で泣いているのは、まだ年端も行かない少女だ。
「わかった、わかったから泣かないでくれ。早く着て」
「内緒にして……」
言い聞かせようにも泣き止まない。
青年は仕方なく、自らの手で服を着せてやった。
「誰にも言わない、秘密にする。だから」
そう言って少女を抱きしめ、震える背を撫でた。
「もう、泣かないで」
落ちていく夕日だけが、そんな二人を見つめていた。
鈍い色の石作りの建物が続く街角。
何人かの少年少女たちが石段に腰掛けて、
疲れた手足を伸ばしたりしていた。
「はぁ〜あ、戦争、なかなか終わんないね」
青い鎧を身につけた戦士風の少年が、ため息をついてうなだれる。
最前線に出て体を張る戦士たちは、一戦一戦が緊張続きで
疲労しやすい。
ここメルファリアの地では、戦場に特殊な力が働いているのか、
普段では死んでしまうような傷を追っても、回復した後
自軍拠点に復帰することが可能だ。
すべてが『クリスタル』という物質によって構成されると
考えられており、倒れた際相手にクリスタルを奪われていることから、
「生命力の源であるクリスタルを消費することで回復、移動している」
と言われている。
戦士たちはその立ち位置のせいか、倒れては戻りを
繰り返すことになりやすい。
生命力自体の消耗が、激しいのだろう。
「ヒロさん顔色悪いよ、早く帰って休んだほうがいいんじゃないか」
戦士の少年にそう声をかけたのは、
斥候や支援などを担う職の少年だった。
自らの武器である短剣の手入れをしながら、前髪に隠れたその瞳は
しっかりと友人の様子を観察していた。
「うん……でもみんなと居るほうが癒されるんだよ」
ヒロと呼ばれた少年は、短剣の少年に微笑んで見せた。
確かに疲労の影は濃いが、一仕事終えた充実感と、
仲間との安らぎのひと時に、心から満足しているという顔だった。
「ヒロ殿はがんばりすぎなんだ。建築や召喚のお仕事もしてるのに、
戦士が少ないからって前線でがんばりすぎだ」
少年の後ろに立ち、鮮やかな金色の髪が乱れるほどくしゃくしゃと撫でて
そうつぶやくのは、黒いローブを身にまとった魔道士の少女。
まだ年は幼いのか、背はとても低く華奢だ。
ローブの袖も少し余っているくらいだった。
そんな子供まで戦場に借り出されるほど、今の帝国は
戦力が枯渇していた。
この街角に集う子供達は、ほとんどが戦争孤児などで、
田舎町やスラム街出身だった。
両親は大抵、戦争に駆り出されて生命力が尽きたか、貧困故に
逃げ出してしまったか、圧制に反抗し、反逆者として捕らえられ、
それきり戻らないか。
何らかの形で、子供だけを残して姿を消している。
そんな状況でも生きてこれたのは、スラム街の子供たちに
戦い方を教えてくれた一人の男のおかげだったのかもしれない。
その男は今、帝国の頂点にいる。
「あの人、最近こっちに来てないみたいだね。忙しいのかなぁ」
白いローブの少年が、遠くに霞む城の方を見やりながらため息をつく。
皇帝になった男は、そうなった後も時折こっそりと抜け出してきて、
子供達の様子を伺っていたのだ。
それが、ここ数日は姿を見た者がない。
「ライル様が即位したんだから、きっとこの国はよくなる」
短剣の少年は器用にその得物を回し、鞘に収めて言った。
少年が武器に短剣を選んだのも、その男への憧れもあったのだろう。
「グリ殿は本当にライル様が好きなのだな!」
先ほどの黒ローブの少女が楽しそうに笑って言った。
グリと呼ばれた少年は少し顔を赤らめて立ち上がる。
「き、嫌いなやつなんかいないだろっ。ニカだって好きなくせに」
孤児達をまとめてくれていた男が、なぜ急に皇帝として
即位することになったのかは、子供達は聞かされていない。
でも、彼自身が貧困の苦しさを知っているのだから、
今後は絶対によくなる。
そう信じて、そして彼のために、戦争にも喜んで身を投じているのだ。
「そろそろ日も暮れてきたし、買い物して帰るかな」
戦士の少年が立ち上がる。
それにつられるようにして、白ローブの少年も立ち上がった。
「あ、僕もそろそろ帰らないと」
「蛙殿のおうちは遠いからな。気をつけるのだよ!」
ニカと呼ばれた少女は魔道士の少年に、挨拶代わりに抱きついた。
「うん。ニカちゃんも気をつけてね」
そうして、四人は手を振りながら、それぞれの家に向かって歩き出す。
戦士の少年と、白ローブの少年は途中まで肩を並べて歩いていた。
「今更思ったんだけどさ、なんでフロッシュはニカから
蛙殿って呼ばれるんだ?」
本人に聞けばよかったかな、と続けて、戦士の少年は
魔道士の少年の顔を見た。
「ああ、カエルが主人公の絵本に、そういう名前の子が出てくるんだ。
母さんが好きだったらしくて……」
母さん、という言葉を紡ぐ際、少しだけ視線が泳ぐ。
本人には、母親の記憶などないからだ。
そして本当にこの名前をくれたのは、たった一人の家族である、
兄だったから。
「そう、か」
何かを感じ取ったのか、戦士の少年はそれ以上聞かなかった。
戦士の少年と別れてから、白ローブの少年は足早に町を離れていく。
少年の家は、人里から少し離れた場所にあった。
「ただいま帰りました」
木でできているわりに安定感のあるその家に一歩踏み込むと、
温かな光を湛えたランプが揺れ、少年を迎え入れる。
「遅かったな、何かあったのか」
養父でもあり魔法の師でもある魔道士が、少年の背後を確認するように
見渡してから扉を閉めた。
「いえ、大丈夫です。友だちと話していたら遅くなっちゃって」
少年は笑おうとしたが、上手く笑えずに顔を強張らせる。
ずっと、友人達に嘘をついている。
年齢を重ねるごとにいろいろなことを知って、
そのたびに、自分の抱える秘密が少しずつ重さを増していた。
幼い頃に引き取ってからというもの、ずっとこの少年を見てきた
魔道士は、弟子の変化を見逃さなかった。
「……もう無理に隠さなくてもいいのではないか。自分の身くらいなら
十分に守れるようにもなっただろう」
この子の兄が出て行くときに交わされたやりとりを、
昨日のことのように思い浮かべながら、魔道士は目を細めた。
「私は、まだまだ未熟です。それに兄さんとの約束だから、
帰ってくるまでは」
少年は、今度こそは本当に微笑んでそう答えた。
魔道士はまだ何か言いたげに口を開きかけたが、
少年が奥の調理場へ行ってしまったため、言葉にするのをやめた。
数日後のこと。
少年は、兄の友人だった若者と同じ戦場になり、初めて前線へ出た。
それまでは、戦場でも後方支援にしか参加していなかった。
クリスタルを採集する役目や、その力を使っての建築物の生成、
召喚術の行使など、直接の戦闘以外にも仕事はたくさんある。
少年は兄の言いつけのひとつとして、直接戦闘を避け、
それらの仕事のみ担うということを守り続けていた。
だが、このときの戦場には氷結の魔法を行使できる者が少なく、
前線に赴く戦士たちが非常に苦戦していた。
兄の友人であり、自分のこともわかっていながら守ってくれている
その若者が苦しむ姿を見て、少年は居ても立ってもいられなくなった。
「おまえ、カルヴァンとの約束いいのかよ? ここやばいぜ」
若者は前線で少年の姿を見つけ、驚いて声をかけた。
「ブラッドさんを助けるためなら、兄さんもきっと許してくれます。
私は後方から援護するだけですし」
氷の魔法を扱う魔道士は、敵兵の足止めや行動抑制を得意としている。
それ自体の殺傷能力は低いものの、味方が攻撃に出る機会を生み出す
貴重な魔法を扱えるのだ。
自らを中心に周囲に冷気の波動を放つ護身の魔法もある。
「それに、たまには戦わないと、本当に自分で自分を守れるように
なっているのか、わかりませんから」
その戦場では、結局帝国軍は敗北してしまい、
領土を敵国に明け渡すことになった。
生命力の消費で拠点に復帰できるようになる以外にも、
戦場には特殊な力が働いている。何らかの基準を元に、
一定の時間以内に勝敗が決まるようになっているのだ。
倒された兵の数であったり、『オベリスク』と呼ばれる特殊な建造物の
影響によるものであったり、さまざまな要素が絡んでいる。
何か大きな力が人間たちに戦争をさせているのではないか。
歴史を研究する者達は口々にそう語っていた。
敗北はしても、体に傷ひとつつかずに終わることもある。
この日は運がよかったのか悪かったのか、少年は少し矢や魔法を
受けはしたものの、酷い怪我は負わずに済んでいた。
「すみません、結局守ってもらってばかりで……」
「気にすんな。俺だって何度も助けられたぜ」
申し訳なさそうにうなだれる少年の肩を叩き、
若者は励ますように言った。
「でも、やっぱり私はまだまだです。まだ、だめだ」
何がだめなのか、それを察して若者は視線を天に向けた。
「あいつがさっさと戻ってくればいいのにな」
約束を守っていればすぐに帰ると告げて旅立った兄。
そのときの少年には理解できなかったのだが、
兄は今隣国で傭兵をしている。
帝国から独立した小国が集まってできた、連合国だ。
小国の集まりであるせいか、その国の内情は安定していないと聞く。
安定するまでは、おそらく戻ってこないだろう。
「連絡は、おまえのとこにもないのか?」
若者はふと訊ねる。
「はい。師匠は、スパイ容疑を恐れてのことだろうと言ってます」
帝国と反乱軍の間で連絡を取り合うなど、見つかろうものなら
双方ただでは済まない。
「そう、だよな……せめて報告だけでもできればなぁ」
元気にやっている、ただそれだけでも伝えたかったし、
少年の兄の消息も知りたかった。
しかし、無理に連絡を取ったことで処刑でもされては、元も子もない。
「まあ、今日は帰るか。ルドゥーさんに用があるから送ってく」
「あ、そういえば師匠も何かお土産があるって言ってましたよ」
少年の師である魔道士は、よく魔物狩りにもでかけていて、
その戦利品を持ち帰ることが多い。
大方、戦士向けの武具でも入手したのだろう。
そんな二人の会話の端を耳にして、一人の青年が振り返る。
「……師匠?」
青年が小さくつぶやいた時には、二人はもうクリスタルの力を利用した
帰還手段で戦場を去ろうとしていた。
濃紺のローブを身にまとうその青年は、
少年の師と同じ雷撃の使い手だった。
少年が師だと言った名の魔道士は、雷を操る魔道士たちの大会で
優勝したことがある。
その際、何人かの若手魔道士が弟子入りを志願したが、
すべて断っていたのを、青年も知っていた。
断った理由はすでに弟子がいたからなのか。
青年もすぐさま二人を追って、首都に帰還した。
翌日。
その日少年は戦争には出ずに、本を読み漁り勉強に励んでいた。
今後も戦争に出るつもりなら、歩兵としての実戦経験も積むべきだが、
まだまだ基礎知識も十分ではない。
昨日の戦場での立ち回りでそれを痛感していたのだ。
昼過ぎまで根を詰めてしまい、疲れが出たため外の空気を吸いに出る。
「やあ、こんにちは少年」
少し道を歩いたところで、声をかける者があった。
「こん……にちは。あの……」
声のしたほうに顔を向け、誰なのか問う言葉を続けようとした少年に、
濃紺のローブの青年が近づいてきた。
「雷帝のお弟子さんというのは、君かい?」
紫色のシルクハットの下、眼鏡の奥の瞳がにっこりと笑いかける。
長めの髪で隠されていて、少年からはあまりよく見えなかったが。
「雷帝というのがルドゥー師匠のことでしたら、そう、ですけど……。
あなたは名乗らないんですか?」
少し怒ったような顔で少年は青年を見上げた。
見下ろされている上に、笑われたような気がして、腹が立ったのだ。
「ああ、すみません。あまりにも可愛い子がお弟子さんだと知ってつい」
青年は悪戯っぽくそういうと、帽子を取って胸にあて、
恭しくお辞儀した。
「ディルアークと申します。今日は、雷帝殿のお弟子さんに……」
そこまで言って上げた顔には、好奇心に満ちた笑顔が浮かんでいた。
「勝負を、申し込みに来ました」
「勝……負……?」
少年は、初めは言われたことを理解できなかった。
「はい。大会で優勝され、すべての弟子入りを断った彼の
唯一のお弟子さん。そんな君と勝負をしてみたいのです、一対一で」
自分は極めて真面目だ、と言わんばかりの顔をして、
青年は少年を見つめた。
「そんな、興味本位の私闘は受けられません。まだ修行中ですし、
師匠にだって叱られてしまいます」
少年は慌てて断った。大会を知っているということは、目の前の青年も
出場していたのだろう。ということは、雷撃使いであり、
さらに出場する程度には実力も自信もあるはずだ。
正直、勝てる気がしない。
それに、そういった類の戦闘はしないようにと、師に言われている。
「負けるのが怖いんですか?」
ふと、青年の瞳に意地悪そうな光が宿る。
「そうですよね、負けたら師匠殿の面目もつぶれてしまいますもんね。
それに、こんなに可愛い子に戦闘はまだ無理ですよね」
そういって微笑むと、青年は少年の頭を軽く撫でた。
「なっ……!?」
馬鹿にされている。
そう感じた途端、頭に血が上り、少年は青年の手を振り払っていた。
「失礼な、あなたみたいな人になんか負けません!」
そんな少年の様子に、青年は嬉しそうな顔で首をかしげる。
「では、受けていただけるんですね?」
「え」
「負けない、ということは、僕と戦ってくれるということでしょう?
明日、日が半分傾いた頃に、訓練場で。待ってますよ」
あっけにとられる少年を残して、青年はくるりと背を向けて
立ち去ろうとした。
そして、途中で立ち止まると、振り返って言った。
「そうそう、すっぽかしたりはしませんよね?
それこそ師匠殿の恥になる」
念を押されてしまい、断りようがなくなって少年は口をつぐむ。
去っていく青年の後姿を、見送ることしかできなかった。
その夜のこと。
「どうしよう……今の状態で勝てるわけない……」
いくらかっとなったからとは言え、あんな大口を叩いてしまうなんて。
少年はベッドの中で、あの時の自分を恨んだ。
夕飯もろくに喉を通らなかった。
師にそれを見咎められたが、相談するわけにもいかない。
私闘を受けたなどど知ったら、おそらく自分の面目など気にせず
止めるだろう。
しかし、師の名を汚すことなどしたくなかった。
「負けるだけなら、自分が未熟者だと馬鹿にされるだけで済む」
逃げたとなればそのほうが酷い言われようをするだろう。
そう考えて、とにかく睡眠だけは取ろうと、
少年は頭まで布団に潜り込んだ。
翌日。
指定された場所へ向かうと、すでに青年は到着しており、
日向でのんびりと座っていた。
訓練場、と呼ばれるその地域は、新人兵士に戦術を学ばせたり、
各自が修行のために使用したりできるようにと、国が用意した土地だ。
首都などと同様に魔物を退ける結界が張られており、
さらに、戦闘中に傷を負った際、生命力を削ってしまう前に
回復、移動するよう、クリスタルの力を利用した仕組みが施されている。
従って、ここでの戦闘はどんなに激しくとも命に関わることはなかった。
「よかった、来てくれたんだね……そうだ、まだ名前を
聞いていなかった」
青年は、握手を求めるかのように手を差し出した。
「フロッシュ、です」
少年は名乗って少しためらった後、青年の手を握った。
その途端、強い力で引き寄せられる。
「……っ?! なんですか突然っ」
少年は近づいた青年の顔に驚き、慌てて手を振りほどいて飛びのいた。
「ただの挨拶ですよ、挨拶。フロッシュ君か……カエルの名前だね」
青年も、絵本を知っているようだった。
やけに陽気な声で少年の名を復唱する。
そして、何か思いついたように顔を上げ、話を切り出した。
「今日は、特別なルールで遊んでみないかい?」
「遊ぶって……」
また馬鹿にされた気がして、少年の顔が上気する。
しかし、青年はお構いなしに続けて言った。
「この間、素敵な騎士様ともそれで戦ってみたんだ。楽しかったよ」
どんなルールかといえば。
少年にとっては、とても受けられないような内容だった。
だが、ここまで来ておいて断るわけにはいかない。
「なんで、そんなルールを」
焦りと迷いで鼓動が早くなっているのがわかる。
少年はなるべくそれが声に出ないように気をつけながら問い返した。
「ただ一戦するだけじゃ、実力もわかりにくいだろう。
装備を外していけばどちらがどれだけ負けているのか、
わかりやすいじゃないか」
それは取ってつけたような理由だった。
要は、彼は相手を脱がせたいだけなのだ。
このルールを聞いて少年はある噂を思い出していた。
美しい青年や、かわいらしい少年に決闘を挑んでは、
負かした相手の装備を奪うなどして楽しんでいる魔道士がいると。
「そのルールじゃなきゃダメなんですか?」
「君が勝ち続ければ済むことじゃないか、気にすることないだろう?」
疑問に疑問で答える青年。断れば変に疑われるだろう。
そのルールを断れないのであれば。
負けるわけにはいかない、少年の中で焦りがさらに膨らむ。
「じゃ、始めようか」
青年は、もう基礎詠唱を始めていた。
魔道士たちが強力な魔法を扱うのに必要な予備動作だ。
効果が続いていることを示す魔法陣が足元に浮かび上がる。
少年も慌てて詠唱を行った。
少年の足元が光り出すと同時に、青年は距離をとる。
雷撃の魔法は射程と威力が特徴だ。
少年も初歩的な雷撃魔法は身につけているが、修練が半端なため、
青年よりも一歩踏み込まないとそれが届かない。
無理に雷撃を使うより、得意の足止めを先に試みることにした。
回復薬なしでの勝負になるため、一撃をくらうことが
負けにつながりやすい。
魔法を放ったあとの隙を狙われまいと、互いに様子を見て
じりじりと動くことが多くなる。
それが、余計に少年を焦らせた。
早く終わらせたいという気持ちがつい、先に行動に出るよう
自らを仕向けてしまう。
「何をそんなに焦ってるんだい? 当たらないよ」
少年の放つ氷の塊を軽々と避けて、お返しにとばかりに
小さな雷を落とす。
「……くっ」
体に痺れが走ると同時に、目の前が暗転した。ひとつ、負けた。
先ほどの場所に戻ってみると、青年はクリスタルの横に
座り込んで回復していた。
「約束どおり、何かひとつ外してもらおうかな」
そうにこやかに言われて、少年は半ば投げやりに
フードの部分を外して投げた。
「まあ、そこが順当だね」
青年は肩をすくめると、フードを拾って土を払い、
クリスタルの上に置いた。
そしてすぐさま詠唱を始める。
装備の少なさの分、実は不利になっている。
そんなことも忘れて、少年もまた戦闘態勢に入った。
今度は足止めメインでなく、氷結の次に得意な
炎の魔法を多めに織り交ぜる。
着弾後少しの間炎が残り、相手に傷を追わせ続けることができるのだ。
その魔法で少しでも体力を奪えば有利になる。
少年は、今度は無理に間合いを縮めずに、
青年の雷撃を待ってから踏み出し、魔法を放っていた。
「さっきより動きがいいね」
「しゃべってる暇あるんですか?」
氷結、炎弾、そして雷撃。うまくその魔法すべてが当たり、
うずくまった青年の姿が消える。ひとつ、勝った。
何戦しただろうか。
青年は帽子と手袋をしていなかった。
対する少年は。
「さて、あとは上下のどっちかしかないね」
最初にフードを取った。手袋と靴ももう外していた。
普通なら、ここで上着を取る者が多いだろう。
青年もそれを予想していた。
だが、少年が脱いだのは下衣のほうだった。
「珍しいな、そっちか。まあ、あまり見た目変わらないもんね」
男性用の下着は、魔道士の下衣とあまり形状の違わないものが多い。
青年はすでに勝利を確信しているのか、笑顔が絶えない。
少年のほうはといえば、もう言い返す余裕もなかった。
もう負けられない。
その気持ちが、少年の動きを余計に鈍らせていた。
そんな少年をもて遊ぶかのように、青年は、
相手を吹き飛ばす威力のある強力な雷撃をメインに戦い、
近づけたり、遠ざけたりしていた。
焦った少年は、青年を足止めしようと踏み込んで氷塊を放った。
「気が合うね」
すれ違うように飛んだ氷が少年の足を地面に縛り付ける。
「……!」
青年のほうも、ある程度氷結の魔法が使えるのだ。
「ちゃんと戻ってきてね?」
優しく微笑んで、青年は最後の一撃を放った。
暗転した視界の中、少年は逃げてしまおうかと考えていた。
でも、それでは戦わずに逃げたのと同じように嘲笑されるだろう。
知られたくはない。
でも、一人に知られるだけなら、内緒にしてもらえるのではないか?
しかし、あの男は信用できるのか?
そんな思考がぐるぐると少年を取り巻いていた。
このまま闇が続けばいいのに。
そんな願いも空しく、開いたまぶたの向こうに
眩しい夕日が浮かんでいた。
重い足取りで青年の元へ戻った少年は、その目を見れなかった。
恐らくまた馬鹿にするような笑みを浮かべているに違いない。
表面は優しそうな顔だけど、あれは絶対子供だと思って馬鹿にしている。
そう思えば思うほど、これから待ち受けている事態に足が竦んだ。
「そんなに恥ずかしいのかい? たいしたことないだろう、
装備外すくらい」
青年は特に気にする様子もなく、軽い気持ちでそう言った。
まだ、少年の態度がおかしいことに気づいていなかった。
「約束は、守ります……でも……」
上着を止めている金具に指を掛けながら、少年の瞳に涙が浮かんだ。
「誰にも、言わない、で」
最初は、青年は涙に驚いていてよく見えなかった。
なぜ泣くのか、可愛い子だなぁなどと思った矢先、
予想外の姿が目に入ってきた。
開いた上衣の隙間から見える下着のさらに下に、
幾重かに巻かれた細長い布があった。
まだ、元々大きくもないのだろうが、男性向けのローブを
着られるようにと、きつく締められているのがわかる。
「え、え、ちょっと待って、君……」
完全に脱いでしまう前に、青年は少年の、いや少女の手を止めて、
上衣の前を閉めさせた。
「女の……子」
「お願い、誰にも言わないで」
もう涙は止まらなかった。
少女は自分がなぜ泣いているのかすらわからないほど、
焦りと混乱と、懇願したい気持ちでいっぱいだった。
服がはだけてしまうのも気づかずにしがみついてくる少女に、
青年は慌てた。
少年だと思ったから、ちょっと悪戯してやろうと思っただけだった。
あの雷帝の唯一の弟子と知って、純粋な好奇心を抱いたのが
初めではあったが、その弟子のあまりに頼りない姿と、
つっかかってくる様が可愛くて、ちょっと悪戯心が
くすぐられてしまったのだ。
まさか、女の子だったなんて。
酷いことをしてしまったという後悔が青年に押し寄せる。
女性に対しては今まで紳士的に振舞ってきた青年だった。
相手もその気であればそういう関係を持ったりもした。
だが、目の前で泣いているのは、まだ年端も行かない少女だ。
「わかった、わかったから泣かないでくれ。早く着て」
「内緒にして……」
言い聞かせようにも泣き止まない。
青年は仕方なく、自らの手で服を着せてやった。
「誰にも言わない、秘密にする。だから」
そう言って少女を抱きしめ、震える背を撫でた。
「もう、泣かないで」
落ちていく夕日だけが、そんな二人を見つめていた。

